5話 ページ6
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突然の物音に驚いて、手にしたばかりの綺麗な青い飴を取り落とす。
バッ、と牢屋の出口の方を見るが、しかしそこには誰もいない。それに、音はもっと……近くから聞こえてきている。背筋にほんのりと嫌な予感が走った。外ではない、ということは。
その事実に気づいてゾッと背筋に悪寒が走った時、急に耳に荒い息づかいが飛び込んで来たものだから、心臓が止まるどころの騒ぎじゃなかった。
声にならない声を上げ、身体に力が入らなくなる。腰掛けていたベッドから転がり落ちる勢いで後ろに下がるが、残念ながら後ろは壁だった。つまり、逃げ場がない。だって今、私の目の前には、
「っ……！？！？」
人間、本当に驚きすぎると声も出せなくなるらしい。現に私はそうだ。今がそれだ。
誰もいないと思っていた牢屋の中。それなのに、私の目の前にはそれがいた。がっつりと、のしかかられていた。
それは、とても人間らしくない人間だった。
身につけているのは、およそいつから着ているのか検討もつかないボロボロの黒いローブ。深く被ったフードの隙間から、長すぎるくらい長い黒髪の前髪が見えた。その口元は奇妙に赤く、ギラリと長い牙のようなものが見て取れる。
いよいよ何が何だかわからずに固まっていると、その人とぱっちり目が合った。真っ赤な瞳が、ゆらゆらと奇妙な具合に輝いていた。
「いっ……」
その瞳の中に明確な殺意、もしくは獲物を狙う捕食者のような獰猛さを感じて、思わず身を引く。目の前のその人は、姿形は確かに人間なのに、絶望的に人間らしくなかった。実際に遭遇したことは一度もないけれど、熊か狼みたいだと思った。
＿＿＿＿殺される。
頭の中で警報が鳴り響く。同時に、何かできることはないかと無意識に手が動いた。
それは、生存本能だったのかもしれないし、やけくそだったのかもしれない。けれど、私の手はそれを＿＿先ほど取り落とした青い飴を＿＿掴んだ。
そして、目の前の何かの、人間のように見えるなにかの口の中に、その飴を思い切り突っ込んだ。喉に詰まらせて、窒息又は怯まないかと思った。
その際に、鋭くとがったその人の歯に指を引っかけててしまったようで、指先に軽い痛みが走る。
それと同時に、ピタリとその人の動きが止まった。
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作者名：ホロスコープ | 作成日時：2022年5月4日 16時
