検索窓
今日:10 hit、昨日:5 hit、合計:16,411 hit

17話 ページ18

.


「え……っと……その、ありがとう、ございます……」


 自分が助けられたのかどうかすら曖昧で、尻すぼみのお礼を言えば、


 「幻覚を見せただけだ。長くはもたない」


 と言って、柿渋色の髪の間から覗くアメジストのような紫の瞳で私を見た。そのまま数秒無言を貫いて、そして首をかしげる。

 
 「……ところで、お前誰だ?」


 その至極当然かつこの場にそぐわなすぎるきょとんとした声と顔に、思わずずっこけそうになった。……いや、私だってこの人を知らないからこの人だって私を知らないんだろうけど!


 「え、あ、えーと……A、といいます……」
 

 これはこれで私もどうかと思うが、他に言いようもなかったので普通に名前を言った。すると彼は、「A」と言って私の顔をまじまじと見る。そして、あぁ、と呟いた。


 「見た顔だと思ったら指名手配犯か」
 「そう、指名手は……は?」

 
 信じがたい単語を頭が処理する前に、彼が急に顔を上げ、扉の方を見た。よくよく聞けば、ドアが開いた音と__それから、馬のいななきのようなものが聞こえてくる。

 それを確認すると、紫の瞳の青年は「時間切れか」とつぶやく。そして、そのローブの下から、先端に紫の宝石がついた小ぶりの杖を取り出した。杖の先には金色の懐中時計がくくりつけられてていて、ぐにゃりと曲がっている奇妙な針が、ぐるぐるとあり得ない速さで回転している。

 彼がそれを軽く振ると、ガシャン、という小さな音がして、そしてこの部屋にいたもう一人__壁にもたれて気絶していた青年の拘束が解かれた。次いで、その身体が薄い紫色のシャボン玉のようなものに包まれて、不思議なことにふわりと浮きあがった。見たことのない現象に目を白黒させていると、彼は「おい」と言って私に手を差し出してきた。


 「お前にいくつか聞きたいことがある。一緒に来てくれ」
 「え? い、いやあの、でも__」


 牢屋から今までの出来事のトラウマで、果たしてここで着いていって良いものかと私が逡巡し、返事を探す__その前に、ぱしりと手を掴まれて、気づいた時には紫色の光を放つ輪の中にいた。あ、まって、これ、まさか、

 「ポータルレポート」という聞き覚えのありすぎる、おそらくは呪文のようなものと共に、再び私の身体は回転し、ぐるぐると目が回り、脳みそがシェイクされ、悲鳴を上げる気力すらなくなって、やがて回転が緩やかに収まって、「着いた」という無愛想な声が聞こえて、

 気づいたときには、私はまた全く知らない場所に飛ばされていたのである。

18話→←16話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (83 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
237人がお気に入り
設定タグ:WT , wt
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ホロスコープ | 作成日時:2022年5月4日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。