17話 ページ18
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「え……っと……その、ありがとう、ございます……」
自分が助けられたのかどうかすら曖昧で、尻すぼみのお礼を言えば、
「幻覚を見せただけだ。長くはもたない」
と言って、柿渋色の髪の間から覗くアメジストのような紫の瞳で私を見た。そのまま数秒無言を貫いて、そして首をかしげる。
「……ところで、お前誰だ?」
その至極当然かつこの場にそぐわなすぎるきょとんとした声と顔に、思わずずっこけそうになった。……いや、私だってこの人を知らないからこの人だって私を知らないんだろうけど!
「え、あ、えーと……A、といいます……」
これはこれで私もどうかと思うが、他に言いようもなかったので普通に名前を言った。すると彼は、「A」と言って私の顔をまじまじと見る。そして、あぁ、と呟いた。
「見た顔だと思ったら指名手配犯か」
「そう、指名手は……は?」
信じがたい単語を頭が処理する前に、彼が急に顔を上げ、扉の方を見た。よくよく聞けば、ドアが開いた音と__それから、馬のいななきのようなものが聞こえてくる。
それを確認すると、紫の瞳の青年は「時間切れか」とつぶやく。そして、そのローブの下から、先端に紫の宝石がついた小ぶりの杖を取り出した。杖の先には金色の懐中時計がくくりつけられてていて、ぐにゃりと曲がっている奇妙な針が、ぐるぐるとあり得ない速さで回転している。
彼がそれを軽く振ると、ガシャン、という小さな音がして、そしてこの部屋にいたもう一人__壁にもたれて気絶していた青年の拘束が解かれた。次いで、その身体が薄い紫色のシャボン玉のようなものに包まれて、不思議なことにふわりと浮きあがった。見たことのない現象に目を白黒させていると、彼は「おい」と言って私に手を差し出してきた。
「お前にいくつか聞きたいことがある。一緒に来てくれ」
「え? い、いやあの、でも__」
牢屋から今までの出来事のトラウマで、果たしてここで着いていって良いものかと私が逡巡し、返事を探す__その前に、ぱしりと手を掴まれて、気づいた時には紫色の光を放つ輪の中にいた。あ、まって、これ、まさか、
「ポータルレポート」という聞き覚えのありすぎる、おそらくは呪文のようなものと共に、再び私の身体は回転し、ぐるぐると目が回り、脳みそがシェイクされ、悲鳴を上げる気力すらなくなって、やがて回転が緩やかに収まって、「着いた」という無愛想な声が聞こえて、
気づいたときには、私はまた全く知らない場所に飛ばされていたのである。
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作者名:ホロスコープ | 作成日時:2022年5月4日 16時