戻れない二人 ページ49
エントランスに入りポストを見たけど、やっぱりこのご時世、ポストに名前なんか書いていない。
私は再び外に出るとマンションを見上げた。
「太輔、部屋番号教えて?」
『駄目』
「じゃあ下まで出て来てよ」
どうせ家にいるんでしょ?
『それも駄目』
やっぱりいるんじゃない。
「もう、入れてよ。せっかく来てあげたのにっ」
『いや、呼んでないから』
そこで笑い声が聞こえて見ると若いカップルが私と目が合うとサッと視線を反らし、マンションの中に入っていった。
なんか、虚しい。
誰にも求められていない自分が。
旦那にも元彼にも性の対象にならない自分が酷く惨めだった。
「…そうだよね。呼んでなんかいないよね。私が勝手に来たんだもん」
『……』
いい歳してやり過ぎた。痛い自分が恥ずかしい。
「最近、私ちょっとおかしかったよね。本当にごめんなさい…」
大人しく家に帰ろう。
私には、あの家にしか居場所はないのだから。
太輔の返事を待たずに電話を切った。
──結婚したら、奥さんなんか家政婦扱いですよね。
そう言った光輝くんの職場の若い女の子の言葉がリフレインする。
別にいいじゃない。
それでも母親としては必要とされているんだから。
女としての需要なんかいらないはず。
泣きたくないから深く息を吐いた後、歩き出す。
帰ってもいくらでもやることはある。
家事に終わりはないから。
せめて、あの家でまで居場所がなくならないように頑張ろう。
「──きゃっ」
突然腕を掴まれ、振り返ると息を切らした太輔が。
「太輔…」
太輔はちょっと戸惑った顔をしながらも、私の手を取った。
その手はとても暖かい。
「おいで」
歩き出す太輔に引っ張られる。
「でも、」
「いいから」
太輔はエントランスに入るとエレベーターのボタンを押して、私のほうを見た。
「…何考えてるの」
呆れた顔の太輔。
「…だから、帰るって言ったわ」
「あんな悲しそうな声で言われたらほっとけないよ」
「ふふ。同情しちゃった?」
優しいもんね、太輔。
「…違う」
エレベーターが着き、中に乗り込むと太輔は私を抱きしめた。
「ほんとは、心のどこかで会いたいって思ってた…。Aが来るの、期待してたんだ」
…ああ、もう駄目だ。
こうなるのが分かってたから太輔も拒んでいたんだ。
「んんっ…」
太輔の顔が近づいて、熱い唇が重なる。
キスだけで、蕩けてしまいそう。
もう何も、考えられない──────
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作成日時:2018年12月9日 19時