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監視カメラは客室や寝室には設けられていない。しかも運の悪いことに失礼になるだろうとインカムは外してきてしまった。
こんな状況で叫ばれたりなんてしたらひとたまりもない。仕方なく刀から手を離した。
「言っただろう、私は話がしたい。さぁ、座って」
落ちるようにソファへ沈む俺と、ゆっくり天井へ上がっていく煙。
「実は君のお父さんを告発したのは私でね。金を積めば黙っていてやると言ったのに金を用意できなかった、いや、用意しなかったものでね」
淡々と語る目の前の男にふつふつと怒りが湧いてくる。
「君のお父さんは牢獄でまだ生きているよ」
タバコがじゅ、と音を立てて潰れる。
「そこで君に提案だ」
ht「父さん、どうしたの」
「お前を母さんに会わせたいんだ」
ht「っ、でもそれって」
「わかってる。この国では首をはねられても仕方ないようなことだ」
目を見開く俺の肩を父さんは力強く掴んだ。そして、父さんは毎日のように顔を合わせ、母さんの手を握っているのだと言い出した。
今まで女に触れてはいけないと教えられてきたのは間違いなのか、と酷く混乱した。
「この世界のことを先生も大人も、誰も教えてくれないだろう。でも、お前には知って欲しいんだ」
「男女が愛し合い、手を取り合い、母親と父親が赤ん坊を抱き上げることを。この国のしきたりなんかに縛られて欲しくないんだ」
「父さんはこれから国に追われることになるかもしれない。その時は、この国から抜け出すんだ」
父さんは「いいな」と言って混乱したままの俺を母さんのいる部屋に連れて行った。
病弱だった母さんは痩せ細り、簾の奥で寝たきり。もう長くはないと俺にもわかっていた。
父さんは簾を退けて俺を部屋に入れる。初めて、母さんの顔を見た。
ht「母さん、」
「まぁ、こんなに大きくなったのね。19歳になったんですってね」
手招きをする母さんに恐る恐る近づくと、細い母さんの手が俺の頬を撫でた。
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