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『おはよ、』
まだ微妙に霧がかった朝の風景の中に、たくさん人影が見えた。
とりあえずおはよ、と声をかけると、同じように返ってくる。しかし、今日が今日なので皆声の調子が沈んでいるように聴こえた。
五年前より綺麗になった街。しかしガレキはあるし地元に帰れない人だって一杯居る。
考えると苦しくなった。
「落ち込むなよ、宮城」
背中を叩きながら笑顔で慰めてくれる千葉だが、目には深い悲しみがこもっているように見えた。
福島や茨城はただじっと街を見渡している。
岩手は静かに目を閉じ佇んでいた。
何も出来ない無力感、何度も後悔した、あの日以来。もう街はあの頃のように戻らないのだろうか。
大切な人、お世話になった人達の笑顔が走馬灯のように蘇る。
すべてあの巨大地震が奪ってしまったのだ。何も出来ない悔しさで虚しさ。
時計を見たら針はあの数字を確かに指していた。
五年前の今頃、地震が起こったのか。
五年前の今頃、津波が起きたのか。
五年前の今頃、たくさんの人が。
涙が出てきた
こんな辛い思いするくらいなら、人として生まれ、死にたかった。
しかし死のうとしても俺は『宮城県』だ。不死身の自分を呪った。
そんな俺の背中に、突如強い痛みが襲った。
振り返るとそれは青森で、力のこもったその拳を背中に当てたまま俯いていた。
多分泣いているのだろう。
『青…
「宮城!」
慰めようと掛けた声は、青森によって遮られる。直後頬も拳で一発殴られ、肩を揺すぶりながらこう言った。
「沈んだ顔しとる場合じゃないだろ!
お前が諦めたら絶対街は戻らねぇべ!!」
「街綺麗にすんだろ!?
死んでいった人々のためにも!」
…__目が覚めた気がした。
そうだ、俺は何を考えていたんだ。
死んでいった人々のために死にたい?
馬鹿か。自分をぶん殴りたい。
死んでいった人々のためにも街を戻さないといけないだろ。
これは俺が県だから出来ることだと思う。
死にたいって思っても《死ねない》んだ。
しっかり、俺。
仮にも東北のリーダーなんだからな。
時計を見ると、もう3時を指していた。
いまだに沈んでる福島茨城岩手の三人の背中を力一杯押す。
『前より良いいい街にしてやろうぜ』
三人は無言で頷いた。
『うし、腹も減ったトコだし、飯食ってから考えようぜ』
「そだな、w」
『……?あれ…』
「どした?」
『……いや!なんでもねぇ』
……―――ありがとう
そう聞こえた気がした。
end
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田中(プロフ) - りんさん» 共感していただけましたか!嬉しいです(´ω`) 大分の方言は可愛いですね!教えてくださってありがとうございます!参考にさせて頂きます! (2018年8月2日 12時) (レス) id: d32f0114cb (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 数学の時間、間違えると『なしそげんことするんかちゃ。』と言われます。『何でそんなことをするんだ』です。 (2018年7月30日 0時) (レス) id: 04fb508195 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 私、大分の者で、『大分』をだいぶじゃなくておおいたって読んでしまうの、共感しました!何でだ、を大分県民は『なしか』と言います。 (2018年7月30日 0時) (レス) id: 04fb508195 (このIDを非表示/違反報告)
田中(プロフ) - ウミネコさん» 岩手くんです! (2018年7月19日 19時) (レス) id: d32f0114cb (このIDを非表示/違反報告)
田中(プロフ) - 一夜さん» 可愛いですねえ(/ω\*) 大分の方言大好きです!参考にさせて頂きますね!コメントもありがとうございます! (2018年7月19日 19時) (レス) id: d32f0114cb (このIDを非表示/違反報告)
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