呪イノ前兆 ページ21
『もっと飛ばして。』
「冷静な声で交通法違反させようとするな…！」
ものすごいスピードで田舎の道を走る車の中、トラ男君がハンドルを切りながら叫ぶ。
『ナオミと春野さんが駅に降りてから無事拠点に着くまで更に護衛、……邪魔はことごとく潰してよし…』
「もうちょっと前に読んどけよ…」
乱歩さんからの指示のメモを読み込む私に、呆れた様子で彼がツッコんだ。
『さて、』
窓から手を出して、持ったメモをライターで焼いて捨てた。見られたら大変だもの。
『見えてきたわね。』
「あの駅か。」
駅の端に車を停め、急いで中へと入った。
そこに立っていた敦君の後ろ姿に声をかける。
『敦君！』
「千咲さん！……ん？その後ろの方は…？」
『そういえば、あそこに居なかった人たちには紹介してないわね。』
『私の相棒兼ニセの恋人の、
…で、悠真、この子は同僚の中島敦君。』
「……え、えーと…千咲さんの……？」
『相棒兼ニセの恋人。』
(あ、これ変にツッコまない方が良いやつだ。)
「瀬虎さんで良いですか？」
「ややこしいから悠真で良い。」
「や、ややこしい？」
「お前は虎屋、と前から決めてたからな。瀬虎だと混ざる。」
「え？…？虎“屋”って…あ、僕のことですか？」
『ええ。…彼の屋号は気にしないで。』
「あ、はい…じゃあ、よ、よろしくお願いします、悠真さん。」
ペコリと頭を下げる敦君。その純粋さを眩しく感じたのか、トラ男君は少し目を細めた。
音と煙を立てて近づいてきた列車が、ゆっくりと停車する。
開いた扉から、見慣れた事務員２人──ナオミと春野さんが現れた。
敦君と共に駆け寄る。
「春野さん、ナオミさん！ご無事でしたか！」
「ええ…でもまさか、事務員が狙われるなんて…」
『……勝つためなら手段を選ばないという事ね。』
「でも安心して下さい。僕たちが避難地点まで護衛しますから！」
胸に手を当てて敦君が言う。それに笑顔で頷き、ナオミは口を開いた。
「そうだ、紹介しますわ。」
２人が出てきた扉から、小さな影が降りてくる。
「列車の中で知り合ったのですけど、」
俯いたまま出てきたその子供が、敦君にぶつかった。
悠真が私の袖を引き、狂気的な笑みを浮かべるその子から離した。
『……敦君？』
ポタポタと、血が滴る音。
敦君の両目から、赤黒い血が流れていた。
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作者名：ミカン酢 | 作成日時：2022年10月22日 16時
