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電話 ページ12

立花先生との会話の後、僕らはどこに行くわけでもなく騒ぎが遠く聴こえる校庭の隅にいた。
「なんか、演奏あっという間だったね」
「あぁ、楽しかった」
「…相原くん」
「なに?」
「私を…」
Aは、黙ってしまった。言葉では伝えづらいことなんだと思う。Aは伝えることに不器用なのかもしれないな、と思った。
「私を、音楽を好きな人間にしてくれてありがとう」
Aは、少し照れたような感情を交えながらもそう言った。その表情に、僕は戸惑いを隠せない。
「…頑張ったのはAだろ?」
「でも、私、相原くんの言葉のお陰で目が覚めたんだよ」
あの時の、電話での言葉で。とAは言った。
そう、あの電話の時。僕はAに向かってこう言ったのだった。
『僕が一番好きな音は、Aの音だ』
僕はAにそう言った。
嘘ではない。僕はずっとAのことを思ってピアノを弾いていたのだから。
ずっと、気がつかないでいた。近くにある幸せの存在に、気がつけていなかった。
「…まあ、そうなら良かった」
「ふふっ、素直じゃないなぁ」
そう言ってAは笑っていた。その笑顔は、天真爛漫な、あの時と同じ笑顔だった。初めてあったあの日の、笑顔のまま。そのえがおが変わらずに未来もあることを僕は願わずにはいられない。

笑顔→←栄光の陰



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作者名:紗由紀 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/sayukinopurofu/  
作成日時:2022年6月29日 20時

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