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夕方になり、バタバタと浴衣の着付けをしてもらってから、一泊の荷物を持って、例の川沿いのホテルへチェックインした。
普通のビジネスホテルなんだけど、ベランダだけがやけに広くて、白いテーブルと椅子がニ脚用意されている不思議な部屋。
もう辺りは暗くなりかけていて、私達は途中で買ってきた食糧とビールをテーブルに並べて、
ベランダの柵に身を乗り出すようにして、その時が来るのを待ちわびていた。
「見て、みんな大変そうじゃない?
場所取りとか、屋台に並んだりだとか。」
「私達も去年は大変だったじゃん。」
「Aはシートに座ってただけじゃなかった?
俺が買い出しで並んだりして、大変だったんだけど。」
視線を川の方へ向けたまま、裕太くんはそんな可愛くないことを言う。
その横顔があまりに可愛らしくて、ついその頬に指を伸ばしてしまう。
暖かいその頬に指で触れたら、裕太くんはゆっくりと視線をこちらに向けた。
「何?」
「可愛かったから、触ってみた。」
「可愛かったら触っていいわけ?」
「いいと思う。」
「なら俺なんか、Aにずっと触ってなきゃいけないじゃん。」
裕太くんはふわりとそう笑うと、今度は私の頬に指をのせてくる。
「なんか…、今日は不思議な気分。」
「不思議ってどんな?」
「楽しいし、幸せなのに、ドキドキとソワソワが止まんない、みたいな。」
そう言ったきり裕太くんはまた、川の方に視線を落としてしまう。
「それって何で?」
「それがわかんないから困ってる。」
そんな話をしているうちに、一発目の花火が打ち上がり、
私達はまだ柵に身を乗り出すようにして、空を眺めていた。
「綺麗…。」
ありきたりだけど、こんなことしか言えなくて。
たぶん来年の私達は、こんな風にのんびりと花火を見に行くことなんて出来ないんだろうな。
そう思っただけで、今見えてる景色が特別に思える。
いろんな花火が打ち上げられるのを眺めながら、ふと隣からの視線に気付いた。
空には綺麗な花火が打ち上がっているのに、裕太くんは何故か私を見ていて、
「A、話があるんだけど。」
そう言って、体ごとこちらに向き直った。
「もう、籍入れちゃわない?
東京から帰ったら、すぐにでも。」
花火の音がうるさくて、よく聞こえなかったけど、
「学生結婚、しちゃおうか。」
まるで、いつもの憎まれ口を叩くかのようなトーンで、
裕太くんはそんな大それたことを口にした。
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クッキーベル(プロフ) - 昨年のクリスマスからこの作品を今日までで一気読みさせていただきました!!すごく面白くて続きが気になります!!!更新大変だとは思いますが、これからも頑張ってください!!応援してます!! (2021年1月2日 19時) (レス) id: 456e770b4f (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - 楽しみに更新待っていますね。^_^ (2020年7月28日 0時) (レス) id: 8591dd4797 (このIDを非表示/違反報告)
bakutan(プロフ) - こんばんは!この物語とても好きです!ゆっくりでも良いので更新再開してください!!楽しみに待ってます! (2020年6月3日 19時) (レス) id: dde750c273 (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - えりさん» こちらも大変お返事が遅くなりまして!こちらも読んでくださってるとは、ありがとうございます。こちらは更にのんびり更新でやってますが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m (2020年3月2日 1時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
えり(プロフ) - こんばんは!こちらも楽しみに読んでいます。めちゃくちゃ素の玉ちゃんが出てる感じでリアル感もあり楽しみです!ゆっくりご都合良い時に更新してくださいね^_^楽しみに待ってます。 (2020年1月25日 22時) (レス) id: 8591dd4797 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わかめ | 作成日時:2019年10月6日 21時