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俺達が乗り込んだのは終電の電車だった。

人もまばらな車内で、俺達は変な距離感で並んで座ってる。

Aは何も話さないし、俺も黙りこくったまま。

30分ほどで終点に着いて、電車から降ろされてしまう。

終点の駅は郊外の小さな街。

駅前は真っ暗で、少し歩けばコンビニの明かりが見えた。

「どうする?これから。」

ようやく口を開けば、Aは泣きそうに潤んだ瞳で見返してくる。

いつもならその目に弱い俺も、今日だけはそんな大好きな表情も見ないふり。









「とりあえずどこかに泊まる?」

コンビニで駅の裏手にビジネスホテルがあるのを聞いて、そのままチェックインしてみた。

シングルルームのツインユース。

かなり古めのホテルで、値段は2人で4000円もしなかった。

バスルームを覗けば、あまりに狭くて古くてため息が漏れる。

…自分の部屋の方にいた方がだいぶましなんだけど。

でもこれは、Aに現実を教えるための旅だから。

しばらくバスルームに立ち尽くしていたら、静かにドアが開いてAが背中に抱きついてきた。

なんとなく想像がつくよ、今のAの気持ち。

きっと不安で仕方ないんじゃない?

だって、俺も同じだから。









Aの腕をゆっくりと解いて、バスタブにお湯を溜める。

「どうする?先に入る?」

「健永くんと入る。」

「無理じゃん。
こんな狭いのに。」

そうだよね、いつも俺ら一緒にお風呂に入ってるのに。

何をするのも一緒なのに。

「狭くても一緒がいい。」

そんな我儘も、いつもなら聞いてあげちゃうとこだけど、今日はだめ。

「とりあえず話そうか。」

Aをバスルームから連れ出して、ベッドに座らせた。









「これからどうするつもり?A。」

なるべく冷静にそう聞いてやれば、意地っ張りなAは即答してくる。

「駈け落ちする。」

「どこに?」

ほら、そう聞けば何も答えられないくせに。

「A、今いくら持ってる?」

「…お財布の中には1万円くらいしかないけど。」

「それでどうやって暮らしていくつもり?」

「銀行の口座には15万くらいあるもん。」

ああ言えばこう言う。

Aは本当に何も知らないよね。

だからこそ心配になる。

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ゆいゆい(プロフ) - 俊くんのに続きコメント失礼します。実は私、宮千好きなので、このお話もとても大好きです!!健永くんと主人公ちゃんの今後も気になりますが、二人の過去の事も、もっと見てみたいなぁと思いました!生意気言ってすいません。わかめさんの作品大好きです! (2017年9月7日 1時) (レス) id: 1462413259 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わかめ | 作成日時:2016年5月22日 2時

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