金曜日のよるたま

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「明日、仕事は何時から？」

それすらも無視してくるから、隣に無造作に伸ばしているその長い足を軽く蹴ってみた。

さすがに憮然とした顔でこちらを向いてきた玉は、

「…言わない」

そう言い残してまた、画面に視線を戻す。

「正直に言いなよ
玉、だいぶ疲れてるよね？」

それすら無視するから、今度はその触り心地のよさそうな耳たぶを、指で引っ張ってみた。

嫌そうな顔をしてこちらを睨みつけてくる割には、その指を振り解いてこないあたりが玉っぽい。

けっこう注文や文句が多くて我儘なヤツだけど、意外に従順でされるがままの部分があったりする。

「明日は昼前から」

耳たぶを摘ままれたままで、今度は素直に答えてくる。









「本当は眠いんじゃないの？」

「眠くないって」

仕方ないから、その指を離してあげるけど。

不貞腐れたように唇をとがらせ気味な玉の横顔は、テレビで見るより幼く見えた。

つけっぱなしのテレビから玉のCMが流れてくる。

「あ、玉だ」

彼はチラリとテレビに目をやると、興味なさそうにまたswitchに視線を戻す。

「あの洗剤、よさげだね」

「そう思うんなら買えよ」

「でもなんか高いじゃん、玉のCMしてる洗剤」

そう言ったら、玉は呆れたように溜息をつくだけ。

それにしてもあのCMでの玉は、美しくて可愛らしい完璧な彼氏で。

今、隣でベッドにもたれて、真剣な目をしてゲームをしている彼とはまるで別人のようだ。

私といる時の玉は、暴言も出るし悪態もつく。

よく笑うし、表情がくるくると変わる。

一体、どっちが本当の玉なんだろう。








隣からその白くて触り心地のよさそうなほっぺに触れてみたら、驚いたように玉は一瞬身を引いた。

だけどそれを無視して、両の指でその両頬を摘まんでみる。

「…何がしたいわけ？」

頬を摘ままれたまま、ちょっと怒ってる玉の声。

「ねえ、どっちが本当？」

「だから、何の話？」

「さっきのテレビに出てた玉と、今目の前にいる玉
どっちが本当の玉？」

玉はその質問に答えない代わりに、私の両頬を摘まんで逆襲を仕掛けてくる。

しかも、けっこう容赦ない強さで。

「A、変な顔になってる」

とか、けらけら笑いながら。







「もういいや、疲れた」

あっさりと指を離してきた玉は、

「ちょっとだけ寝かせて」

そう言って、勝手にベッドに横になってしまった。

「２時間だけ寝るから、起こして」

…って、やっぱりテレビで見る玉は、偽者のような気がする。

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