金曜日のよるたま

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私がソフトの袋を開封しようとすると、

「ちょっと待って
俺も準備するから」

って、やっぱりうるさい。

全ての準備が整った私達は、並んでソファーを背にして座り込んだ。

テーブルの上には、ペットボトルのドリンクと、開封されたスナック菓子とトング。

トングはコントローラーを汚したくないから、ゲーマーには必須アイテム。

ソフトをセットして、「せーの」で電源を入れる。

しばらくは無言が続く。

基本、２人でいる時は無言が多い。

何故だか彼といると、無言が苦ではない。

だってこの人は、空気みたいな人だから。







気がつけば、もう５時間も経っていた。

もう深夜の２時。

「明日、仕事何時から？」

「お昼過ぎから」

お、珍しく遅いんだね、明日は。

ここから玉の家まで、タクシーで20分ほどらしい。

らしいって言うのは、どこに住んでるのかもどんな部屋なのかも知らないから。

「ねえ、玉の部屋ってどんな部屋？」

ゲーム画面を見つめたまま、そんなことを聞いてみても、返事はない。

答えたくないのか、ゲームに集中してるからか。

その質問をして15分ほど経った頃、

「そんなの聞いてどうすんの？」

と、意味不明な返しが帰ってきた。

「何の話？」

「さっき、俺の部屋がどうとかって言ってたじゃん」

さっきじゃなくて、だいぶ前じゃん！








そんな玉の横顔をチラ見してみる。

綺麗な横顔。

まるでギリシャ彫刻の女性像が息をしてるような、そんな横顔。

「俺の部屋は、Aなんかが絶対に住めないような、ゴージャスな部屋」

「私だって、そのうちドバイの大富豪に見初められて、お城に住むかもしれないし」

「は？そんな干物みたいな格好して引きこもってるヤツが、どうやって大富豪と出会うわけ？」









「そろそろ彼氏でも作れば？」

「そのうちね」

「けっこう同級生、結婚しはじめたんじゃない？
こんな所でゲームとかしてていいわけ？」

「お前もな」

「俺は結婚しないから、別にいい」

「しないんだ？」

「恋愛も結婚も面倒くさい
一生、一人でもいいわ」

「寂しくない？そんな生活」

「今はAがいるから、別にいい」

そうだね。

今は楽しいから、このままでいいんだ。

こんな意味の無い会話を、ゲーム画面を見つめたまま、延々と繰り返している、金曜日の深夜。

あ、もう土曜日だね。

だけど、玉が居る限りは金曜日の夜。

だって彼は、金曜日のよるたまだから。

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