金曜日のよるたま

いりぐち ページ1

玉森裕太は、金曜日の夜になると必ず我が家を訪れる。

駅から徒歩17分の辺鄙な場所にある、激狭ワンルームの我が家に。

「来てやったぜ」とでも言わんばかりの横柄な態度で現れては、さんざん悪態と我儘を言い散らかして嵐のように去っていく。

そんな金曜日の夜にだけ訪れる彼のことを、私はこっそりこう呼ぶ。

「よるたま」








玉森裕太はテレビに出ている人だ。

アイドルでありながら、ドラマにも出たり、CMにも出て、辺り一面にキラキラを振りまいている。

そのくせ透明感があって儚げで、芯が強そうに見えてゆるふわで、人見知りを拗らせまくって、それでいて美しい男。

テレビの画面越しに見る彼はそんな感じだけど、リアルな彼は違う。

遠慮なしだし、ガサツだし、口は悪いし、変なとこだけセレブだし。

何がいいんだが、それでも彼は金曜日の夜になると、我が家にやってくる。







別に私達の間に男女の関係や恋愛感情があるわけではなく、元々は幼稚園から中学まで一緒だったというだけの関係で。

特段、仲が良かったわけではない。

たまたま地元の友達とオンラインゲームをしていた時に、久々にネット上で再会して、毎晩のようにボイスチャットしながらゲームをするようになったのが2年前。

ボイスチャット上では、最初は人見知りを発動させていた彼だけど、そのうち遠慮なしになった。

そして、久々に地元の友達の集まりで会ったのが1年前のお正月。

その時だって人見知りを発動させていたくせに、1時間も経たないうちに遠慮なしモードに入り、

その日のうちに、この狭いワンルームに遊びに来た彼は、

「狭！何この部屋」

とか、さんざん悪態をついたくせに、テレビの前に居座ってはもうゲームのコントローラーを握っていた。

「で、こいつを倒しとけばいいわけ？」

って、ここ数日私が苦戦していたモンスターをものの数分で倒してしまった彼は、用も終わったのになかなか帰ろうとはしなかった。

「何か飲みたい」

とか、

「おなかすいたんだけど」

とかって、さりげなくいろいろと要求してきては、結局朝方まで居ついた挙句、

「じゃあ、帰るわ」

ひらひらと手を振りながら、あっさり帰って行った。








その日から何故か、玉は毎週金曜日にこの激狭な我が家に通ってくるようになった。

特に用もないのに。








これは、そんな金曜日の「よるたま」のお話。

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