曖昧なモルヒネ

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退院後、本当に宏光は育児休暇を取ってしまった。

昼はけっこう頑張ってくれるけど、夜になると赤ちゃんが泣いてもずっと寝てるけどね。

子どもの名前は彼の名前から一文字とって「光」と名付けられた。

誰の手も借りることのできない状態の私達は、気が付いたら交代制で育児をするようになり。

昼間は彼で、夜間は私、みたいな。

お陰で私達は２人でいる時間が極端に少なくなってしまった。

私はとうとう、我慢できずに言ってしまう、

「なんか最近、話せてなくない？」

宏光は光を抱きながら、苦笑い。

「まあ、１カ月も経てば少しはまとめて寝てくれるらしいからさ
そうしたらゆっくり２人の時間も取れるんじゃないの？」

私達は本当に生き急いでいる。

お互いのことをよく知らないまま結婚して、すぐに子どもが生まれて。

ときめいたり、幸せを感じたり、そういう作業を全て省いてここまで来てしまったわけで。

我儘な私は、今更そういうのが欲しくなってしまった。








その日の夜、川の字に並んでベッドに入っていた。

いつもなら高速で寝てしまう宏光も、今夜は珍しく起きたままで、半身を光に向けた状態で、

肘枕をしたまま、ずっと光を眺めている。

「なんか不思議なんだけど」

視線を全く光から話さないままで、そんなことを言い始めた。

「何が？」

「俺がこうして、自分の子どもを眺めてることが」

オレンジの薄明りの中、光を見つめている宏光は、目元と口元を緩ませて、今までみたことがないくらいに幸せそうな表情をしている。

こういう表情をさせる光に嫉妬するくらいに。

「宏光、今幸せ？」

そう訊ねたら、

「そうだね」

という、スカした感じの答えが返ってくる。

「どれくらい？」

「どうだろ…
でも生きてるって感じはする」

光から一切視線を動かさないままそう答えた彼は、感嘆にも似た溜息をつく。

「もう子どもは持てないと思ってたら
夢か現実化、まだわかんない感じ」







「別に子どもなんか要らないと思って生きてたんだけど
前に話したと思うけど、赤ちゃんが出てくる夢を見たって」

うん、言ってたね。

赤ちゃんを抱いてた宏光の傍に、私に似た人がいたって。

「あの夢を見てから、急に子どもが欲しいと思うようになったんだよね
だから、なんか不思議な感じ」

やっぱりあの夢って、予知夢だったんじゃないの？

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