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「あいつの電話番号、Aの前で消しちゃったからさ
友達に電話かけてもらって、Aにテレビ電話して説明しろって頼んだんだけど
かかってきた?」

あいつって、さっきのFくんのこと?

なんか…、思ってた以上に律儀なんだな、宏光は。

「俺が、怒って出て行ったと思った?」

それには返事はしないでおく。

変に調子に乗らせてもよくないし。

「…んなわけねぇじゃん
てか、かなり必死だったんだけど、俺
元々、俺の印象はAの中でよくないみたいだし
ちゃんと誤解は解いておきたくて」

本当に彼は真面目だ。

その見かけとは相反して。

「信じていいの?それ」

間近にある彼の瞳を凝視してみる。

僅かな黒目の揺れも見逃さないように。

なのに彼は逆にふざけるように私の目を見つめ返してきては、

「今、俺が嘘ついてないか確認してただろ」

とか言いながら、おでこに唇を寄せてきた。

そのままやんわりと肩を抱き寄せては、

「大丈夫だって
Aはいろいろ疑ってるみたいだけどさ、
俺、今けっこう幸せなんだけど」

耳元で嬉しそうにそう囁いては、くすくすと笑う。

彼の笑い声は鼓膜をくすぐって、背筋を伝って全身の力を奪ってしまう。

ぐったりと、彼の肩先にもたれかかった私を受け止めながら、

「でも、心配なことがあったら、こうやってきちんと聞いてくれるAが好き
これからも不安なことがあったら、何度でも教えて」

きちんと真面目なトーンで、耳元でそう囁いてくれた。

…本当はまだ心配なことはあるけど、今はもういいや。

彼にこうされてるだけで、不安な気持ちはじわじわと浄化されていく。









「もう寝る?」

彼は満足げな声をして私の背を、指でトントンと叩く。

「妊婦は睡眠時間をいっぱい取らないといけないんだって」

「…よく知ってるね」

「妊娠と出産の本、かなり読みこんだし」

「そうなの?」

「多分、Aより読んでると思うよ」

耳元で笑う彼の笑い声が、耳に心地いい。

彼の笑い声をずっと聞いていたい。

自分が果ててしまう、今際の際(いまわのきわ)までも聞いていたいほどに。







「いつ出てきてもいいぞ」

その夜、ベッドの上で彼は、私のお腹に向かって話かける。

まるで返事でもするように、彼の掌をお腹の赤ちゃんが蹴る。

まるで絵にかいたような幸せな夫婦の光景。

だけどその夜、私はじわじわと間隔を狭めていく鈍痛で目を覚ますことになった。

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りたわかめ(プロフ) - 牡丹さん» ありがとうございます。更新遅めですが、また読んでやってください♪ (2021年3月8日 16時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
牡丹(プロフ) - はじめまして!オススメのところから辿り着き、一気に読ませていただきました(☆∀☆)スピンオフも楽しみにしています!! (2021年3月8日 9時) (レス) id: 1a54c4e0e3 (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - 汐里さん» 終わってしまいましたー♪続編も書きたいところなんですが、外伝書きたくなってきて、今ウズウズしてますw (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - moraさん» 終わっちゃいましたよー(/ω\)でも外伝書きたくてウズウズしてますがwww (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - nanacoさん» ありがとうございます。けっこう長い時間がかかってしまいましたが、最後まで読んでいただけてありがとうございます♪ (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りたわかめ | 作成日時:2020年2月15日 12時

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