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「とりあえず引っ越す?」

彼は部屋を見回しては、そんなことを言い出す。

「妊婦がロフトで寝るとか、ありえなくない?」

彼はロフトへ続く階段を指さして、そう言う。

確かに、これからどんどんお腹が大きくなっていくなら、この頼りない階段とロフトの高さは危険かもしれない。

「来る?俺ん家」

彼は涼しい顔をしてそんなことを言い出す。

そう言えば私は、彼の家を全く知らない。

というより、彼のことをよく知らない。

私が知ってるのは、彼は本能で生きてるような人で、バーテンダーで、バックパッカー。

本当にそれくらいしか知らない。

なのに私達は結婚することになる。







初めて彼の家に行ったのは、翌日の夜だった。

インドから帰ってきた彼は疲れ果てたのかロフトで泥のように眠り続け、翌日の夕方にようやくロフトから降りてきた。

どうやら彼の家というのは、ここから歩いて10分もかからない距離にあるらしい。

不思議なことに、昨日、同じ道を歩いてた時には絶望感でいっぱいだったのに、

今日は何故かわくわくしていた。

人間とは、単純な生き物だ。









住宅街の少し奥まった場所にある、普通の一軒家。

古くもなく新しくもなく。

「ここに住んでるの?」

「いや…、今は誰も住んでない
だけど、俺ん家」

彼はぎこちなく鍵を開けると、玄関の灯りを手探りでつける。

家の中は確かに誰も住んでいないような乾いた匂いがして、出してくれたスリッパを履いて恐る恐る足を踏み入れてみた。

「俺も来るの久しぶりなんだけど」

そう言いながら彼は、私に向かって手を差し出してくる。

「怖いんだろ」

とかって、子どもっぽい笑みを見せながら。

彼と手を繋ぐのは好き。

彼の手のひらは子どもの体温みたいに暖かくて、それが何故かとても安心するから。








最初に入った部屋はどうやらリビングらしき部屋で、繋いでた彼の手が少しだけ強張ったのを感じた。

そこにはもう家具も何もなくて、ただの空き部屋なのに。

「ここに住んでたの、いつまで?」

「学生時代までかな」

珍しく彼は切なげな目をして、キッチンへ向かう。

「ここ、うちの両親が離婚した時に一度売られたんだけど
大人になってまた売りに出てるのを知って、買い戻した」

「買い戻したの?家を」

「まあ、まだ少しローンは残ってるけど」

少し!?

ありえなくない?

家だよ。

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りたわかめ(プロフ) - 牡丹さん» ありがとうございます。更新遅めですが、また読んでやってください♪ (2021年3月8日 16時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
牡丹(プロフ) - はじめまして!オススメのところから辿り着き、一気に読ませていただきました(☆∀☆)スピンオフも楽しみにしています!! (2021年3月8日 9時) (レス) id: 1a54c4e0e3 (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - 汐里さん» 終わってしまいましたー♪続編も書きたいところなんですが、外伝書きたくなってきて、今ウズウズしてますw (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - moraさん» 終わっちゃいましたよー(/ω\)でも外伝書きたくてウズウズしてますがwww (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
りたわかめ(プロフ) - nanacoさん» ありがとうございます。けっこう長い時間がかかってしまいましたが、最後まで読んでいただけてありがとうございます♪ (2021年1月12日 20時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りたわかめ | 作成日時:2020年2月15日 12時

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