曖昧なモルヒネ

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「参考までに聞いておくけど、Aは理想の結婚生活とかある？」

「…それ、答えたら叶えてくれるの？」

「まあ…、できる範囲で」

そんな会話を繰り返しているうちに、だんだん洗脳されてきたような気分になってくる。

彼は今、私にじわじわと結婚を迫っているわけで。

そして、お腹の中には２人の子どもが宿っているわけで。

私達にできる最善の選択はなんだろう。

そう考えたらもう、目の前のこの人と結婚するしかないんだろうって。

正直、彼には期待はしてない。

ただ、浮気なんてせずに、きちんと仕事をして、家族を大事にしてくれれば、

もうそれだけでいいんだけど。

半ば自棄になって、私の理想の結婚生活を全部並べてやる。








「毎晩、一緒に寝て欲しい」

「いいよ」

「一緒に寝るだけじゃないよ？
ぎゅーっとしていてほしい」

「それだけでいいの？」

「それだけって？」

「寝る前にしなくていいわけ？いいこと」

いいこと…。

それは…、当然しなくちゃ嫌だけど。

それは今は言わないでおく。

そういうのは、当然必須案件ということで。

「私が悲しかったり辛い時は話を聞いてほしいし、慰めて欲しい」

「いいよ」

「あと、優しくしてほしい」

「それから？」

「モラハラとか暴言とかＤＶとかは絶対に嫌」

「それは俺も嫌」

なんなんだろうか、この会話は。

こうして視線を絡ませ合いながら交わされるやりとりは、どんどん心を穏やかにしていく。








「嘘もつかないでほしい
隠し事もだめ」

「うん」

「一番嫌なのは、私を裏切ること」

「浮気ってこと？」

「…うん」

どうしても、それだけは嫌なんだ。

彼と結婚することで一番心配なのは、それだから。

「そういうのも、もう卒業なんじゃない？
結婚するんだし」

「…そんなに簡単に卒業できんの？」

「ずっと探してたんだと思う、今まで
最後の誰かに会えるまで」

やけに甘ったるい声でそう呟いた彼は、そのままやんわりと唇を重ねてきた。

まるで私の気持ちを窺うようなその唇は、遠慮がちに触れては、また重ねられる。

結婚しちゃうのか、とうとう。

厳かで浅いキスを繰り返しながら、頭の中ではそんなことを考えていた。

彼はいいお父さんになるんだろうな。

だけど、私のいい夫にはなれるんだろうか。

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