曖昧なモルヒネ

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「大体、子どもはできないって言ってなかった？」

「できないかも、とはいわれたけど
できないと断言されたわけじゃないし」

「できないって宣告されたって言ってたじゃん」

「言ってた？忘れたわ」

とか言いながら、リモコンでテレビを消した彼は、改めてこちらに向き直った。

「俺はけっこう、うれしかったんだけど
Aの妊娠の話を聞いて」

「…本気で言ってる？」

「じゃないと、旅行を切上げてまで帰ってこないって」








「本気で父親になる気？」

「だって、Aもそのつもりで連絡してきたんだろ」

「じゃあ私達、結婚するの？」

「Aがそうしたければ」

…何だ、このやりとり。

のれんに腕押しというか、ぬかに釘というか、泥に灸みたいな。

温度差がありすぎて、会話になってない。

「そもそも、北山はこの妊娠についてどう思ってるの？
嫌だとか面倒だとか、そういう感情はないわけ？」

「将来的に子どもは欲しいと思ってたし、できないかもって言われてたから
ただ純粋にうれしいだけ」

「それって、自分の子を産んでくれれば、相手は誰でもよかったってこと？」

なのに彼は微笑みながらこう言うんだ。

「あんまカリカリすんなって
妊婦が怒ったりストレス溜めると、胎児によくないって」

「質問に答えて！」

カリカリもするよ。

大体、何考えてんのかわからなさ過ぎるんだって！

ちゃんと、本心を見せてよ。







「Aも子どもを欲しがってたし、俺も子どもは欲しいと思ってた
条件は一致してるわけだし、それでよくない？」

「よくない」

何でこの男は、こんなに落ち着き払ってるんだろう。

けっこうこれって、人生の一大事件だと思うんですけど？

「北山のビジョンを教えてよ
一体、これからどうしたいわけ？」

「てかさ…、その北山呼びやめない？
そのうちAも北山になるんだし」

こっちが真剣に話してるのに、いつも彼はこんな風にふわりと躱してしまう。

私達の身体の相性はいいかもしれないけど、心の相性は合いそうにない。






「いいから、さっきの質問に答えてよ」

「俺は、Aと子どもを育てるつもりで帰国してきたんだけど」

さっきから、その一点張りだよね。

じゃあ質問を変えてあげる。

「自分の子じゃないかも、とか思わなかった？」

だけどそんな質問にも、彼は表情ひとつ変えない。

「だって…、俺と寝たら他の男と寝ようなんて思わないだろうし」

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