曖昧なモルヒネ

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どうやら私にはつわりはないみたいだ。

食欲もあるし、普通に仕事もできる。

ただひとつ難点なのが、眠くて仕方ないことだ。

家に帰ったらとりあえず３０分くらい仮眠をとりたいし、すぐに疲れて横になりたくなる。

とにかく、この時期はそういうものらしい。

職場は…、まあ相変わらず視線は冷たいけど、子持ちの方や意外と同年代の人達は優しくしてくれる。

主任には、「育休を取って復帰します」と告げたものの、やっぱり溜息で返されてしまった。

「大丈夫？
うちの部署はハードだから、復帰するつもりなら楽な部署へ配置換えをリクエストしておいた方がいいと思うけど
育児をしながらのフルタイムは、なかなか厳しいよ？」

…確かに。

もしかしたら主任はいい人なのかもしれない。

私の身を案じて、あんな苦言を言ってくれていたのかな。







そして、宏光も相変わらずだ。

きっちり定時に帰ってくるあたり、意外に仕事ができる男なのかもしれない。

今夜も仕事から帰ってきたら、家に入る前から漂ってくるカレーの香り。

その日の夕食時、ふと気になったことを聞いてみた。

「今まで、仕事終わりの夜とか、何してた？」

本当に素朴な疑問。

彼がまっすぐ家に帰って、自炊してるなんて想像もつかないから。

「この家のローンがあるから、夜は普通にバイトしてた
仕事の休みの前日だけ、友達と飯を食いに行ったり、飲みに行ったり？」

「で、そこで出会いがいろいろあったわけだ？」

「こだわるね、そこ」

彼は鼻の上のところに皺を寄せて笑う。

こだわるでしょ、そこは。

今までそんな破天荒な生活を送ってきたのに、結婚した途端に急にこじんまりとまとまっちゃうとか、ありえなくない？

そのうち物足りなくなって、爆発しちゃうんじゃないかと思って。








「何が心配なわけ？Aは
俺がこの生活に退屈して、また遊びに行っちゃうんじゃないかと思ってる？」

「…思ってる」

思わないわけないよね？

あんな情熱的な夜を、男女問わずいろんな人と過ごしてきた人なんだから。

妊娠中の私に手も出せずに、禁欲してるってことすら信じられないのに。

「なんかもう、興味なくなった…、って言ったら信じてくれる？」

「外の世界に？」

「そう、もう遊び尽くした
やりたいこともやったし、行きたいとこも大概行けたし
そろそろ、まともに生きようかなと思って」

…って、それ、信じていいわけ？

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