星になんか願わない -B

2019/05/10 ページ3

俺の指導係は宮田っていう人らしい。

彼は始終ニコニコしていて、実は初めて会った時、少しだけ懐かしいと思ったんだよね。

「宮田さんって、俺と仲良かった感じですか？」

だからつい、不躾にそんなことを聞いてしまった。

「仲良かったよ、同期だったし」

人懐っこい笑顔でそう言われて、やっぱり懐かしさを感じてしまう。

「あの人も？」

こちらに背を向けているあの子を指さしたら、一瞬だけ、彼は寂しそうな目になった。

「同期だからね」

そう答えては、

「だから、敬語とか使わなくていいからね
俺らは同期なんだし
俺のことは「宮田」とか「宮っち」とかって、玉は呼んでたよ」

さりげなく、話題をすり替えた。

「玉って呼ばれてたんだ？俺」

「そう、ここでは「玉」か「玉森」かな」

…なんか変な感じ。

家族にはずっと「裕太」呼びされてたから、尚更。









午後になり、データ入力を頼まれたんだけど、このPCのシステムがよくわかんなくて。

課長に聞いたら、あの子に教えてもらうように頼まれたんだけど。

とてもそんなことは頼めなくて、１人でマニュアル本を見ながら頑張ってたら、

「どこが分からない感じですか？」

って、彼女が背後に立った。

俺のパソコンの画面を、あの子が斜め後ろから覗き込んできた時、

ふわっと香って来た香りに、不意に変な気持ちになった。

さっきみたいな懐かしさじゃなくて、一気にモノクロだった景色に色がつくような、そんな感じ。

急に心臓が跳ねて、ドキドキが止まんなくなる。

彼女の細くて白い指が画面を指したり、その声が耳元で聞こえる度に、過剰に反応する俺の心臓。

…ヤバくね？この状態。

俺はこの子に、恋をしてしまったんだろうか。

もしくは、この子にずっと片思いしてたとか？









新人研修で仲良くなった女の子はたくさんいたし、２人きりで遊びに行った子だっている。

なのに、こんなにドキドキはしなかったし、こんな切なくて甘い気持ちになったことはなかった。

急に何も話せなくなった俺は、彼女の言う通りに指を動かして、「はい」とか「わかりました」とかって、小声で答えるだけ。

…すげえ、感じ悪くない？俺って。

でも無理なんだって。

顔も見れないし、自分から話しかけることもできない。

レクチャーが終わって、席を立って、

「ありがとうございました」

そうお礼を言ったけど、返事はなくて。

頭を上げたら、返事の代わりに、傷ついたような目をしたあの子と目が合った。

2019/05/17→←2019/04/01

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す