落花流水

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「まあ、その気持ちは理解できるし
俺が元彼さんの立場だったら、同じことを思うだろうから」

口いっぱいに厚揚げを頬張りながら、呑気に彼は話し続ける。

「俺みたいな仕事をしてる人間と付き合うのは、本当に大変だと思う
だから俺も、Aと付き合うってことに躊躇してたのは事実だし
でも付き合うって決めた以上は、Aのことを幸せにしたいって思ってるよ」

だから何で、おでんを食べながらそんな大事なことを話すかな。

それよりも私が聞きたいのは、「身を引け」って言ってきた先生になんて答えたかってことなんだけど。

「だから元彼さんにも、その気持ちをわかってほしくて
ちょっと語り合っちゃったよね」

…って、何で１人で思い出し笑いとかしてるわけ？








「付き合ってる時のAの話も聞いちゃった」

おい、待て！

何で話題がそっちに行っちゃうわけ？

「元彼さん、まだAが大学生の頃から好きだったみたいよ」

「そんなの初耳なんだけど」

「ゼミに入って来た頃から気になってて、でも教員と学生だからコンプライアンス違反だしって、
Aが大学院を卒業するまで待ってたらしい」

いや、そんな話を今頃聞かされても。

それより早く、結論を言ってよ。

「なんか、お互いAの好きなところとか話しちゃって、変に盛り上がっちゃって
LINE交換とかしちゃったし」

スマホを開いて、大西先生の連絡先を見せてくる辺り、本当にタチが悪い。

彼女の元彼と友達になってどうするわけ？

先生も先生だ。

元カノの今彼と繋がるとか、マジでありえない。








「んで、身を引いてほしいって話になって…」

そう言いかけて、彼はチラリと私に視線を寄越す。

私がそれを一番知りたいのをわかってて、ここまで焦らすとは。

本当にこの人はタチが悪い。

「ちゃんと断ったから」

清々しい顔をして、誇らしげにそう言った彼は、またおでんと格闘しはじめる。

「どんな風に？」

「それは無理って言った」

「先生はなんて言ってた？」

「特には何も
多分、俺がそう宣言するのが聞きたかっただけなんじゃないの？」

…本当によくわからないな、男同士のやりとりって。

「無理だろ、今更「身を引け」とか言われても
もう俺は仕事以外の全ての思考を、Aに捧げちゃってんのに
他人に何か言われたくらいでやめないって」

今度は煮卵を頬張りながら、彼は心底幸せそうに微笑んでいた。

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