無敵のスピカ

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「今日から俺ら、付き合うってことで」

そんな軽薄な言葉で確認を取るけど、Aはなかなか「うん」とは言ってくれない。

「どうする？
会社では俺らのこと、内緒にしとく？
それとも盛大にバラしちゃう？」

その言葉に、ようやくAは反応した。

「…秘密にしとく」

聞き取れないくらいの小さな声で。

「いいよ、じゃあ秘密ね
とりあえず、付き合って最初に何する？」

わざとそんな聞き方をしてみた。

だって告白した方が、主導権を握れるんじゃないの？

なのに、

「今日は帰る！」

急に立ち上がって、そんなことを宣言したAは。

そのままバスルームに逃げ込んで、着てきた服を着替えて出てきては、

「３０分後に来て」

俺の方を振り返りもせずに、部屋を出て行ってしまった。









…待って。

今のはどういう意味？

３０分後に来いって？

それは…。

その意味に気付いた時に、俺は盛大に顔が緩んでしまうのを止められなくなった。

バスルームを覗けば、床に無造作に脱ぎ捨てられてる俺の部屋着。

せめて畳めよ。

最大級に口元を緩ませながら、脱ぎたてほやほやのそれを畳みながら思う。

やっと今夜は、この部屋着に残ってる仄かな体温の持ち主の、

その肌に触れることができる？

きっとAは今頃、部屋を大掃除なんかして、可愛らしい部屋着に着替えて、

そわそわしながら俺のことを待ってるはず。

ちょっとだけ遅めに行ってやろうか。

３０分で部屋が片付けきれるとは思えないし。









少し遅めに部屋を出て、Aの部屋へ向かってわざとゆっくり歩く。

Aの部屋には入れてもらったことはないけど、部屋の前まで送らされたことは何度もある。

いつも、このドアの向こうに入れるような関係になれたらいいのにって、まるで高校生男子のような焦れったさと戦ってたのに。

…なんだ、早くこの一線を飛び越えてしまえばよかった。

「好き」の一言だけで、こんなに出来ることが増えるなんて。

突然、三叉路で急に飛び出してきた自転車と危うく接触しそうになって、さっと身を躱して、安堵の溜息をつく。

今ここで事故ってたら、俺はどうなるわけ？

やっとこれから、俺らの世界が動こうとしているのに。

I don't wanna die tonight.

今夜、Aのその肌に触れるまでは、俺は死ねない。









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