無敵のスピカ

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しばらくして３年生は自由登校になり、彼の姿を学校で見ることもなくなった。

あの夜、おじいちゃんに話したら、渋々ながらも了承してくれたけど。

北山のおじいちゃんは、ショックで寝込んだらしい。

本当に不甲斐ない孫で申し訳ない。

彼のいない学校はいたって平和で、心がざわつくようなことも全くなくなった。

なんだ、もっと早くにこうしてればよかった。

こんなに楽になれるなら。









そして、彼の卒業式の日を迎えた。

風の噂では、どうやら彼は東京の大学に合格したらしい。

１年生は卒業式に参加する必要はなく、私は友達と昼間からカラオケに来ていた。

時折、友達がスマホを開いては、卒業式の様子を教えてくれる。

「ヤバい！
北山先輩、学ランのボタン全部奪われたらしいよ」

久々に聞いた彼の名前に、少し胸はざわついたけど、すぐに治まった。

時間っていうのはすごいもので、

しばらく会わないでいたら、恋心もいい感じに萎んできたのかな。

「３年生の打ち上げ、ここでやるらしいよ
ちょっと見に行く？」

友達にそう誘われて動揺した私は、そのまま鞄を持って席を立っていた。

「…帰る！」

「何で？
今日は夜まで遊べるって言ってたじゃん」

「急に用事が出来た」

とか、苦しい言い逃れをして、そのまま部屋を飛び出す。

だけど、受付にはもう３年生達が続々集まって来ていて、

例の由莉さんの姿も見えた。

でも出口はここしかないわけで。

「あれ？宏光は？」

なんていう声も聞こえてきて、私は３年生達の脇をすり抜けて、逃げるように外へ出た。

外に出ても気は抜けない。

これからやってくるであろう彼と、鉢合わせしてしまったら大変だから。









彼が来そうな道を避けて裏通りへ出た。

裏通りをドボドボ歩きながら、ふと気付く。

あれ？私何で逃げてるんだろう。

何も悪いことしてないのに。

でも今日をやり過ごせば、東京へ行ってしまう彼とは、もう会わずにすむ。









30分以上かけて遠回りして、ようやく自宅へたどり着いたら、

日はもうとっくに暮れていて、玄関先には門灯がついていた。

「ただいまー」

玄関で靴を脱ぎながら、リビングのドアを開けたら、

そこには、まるで家族みたいな雰囲気で、

「お帰り」

なんて微笑んでソファーに座ってる、彼がいた。

しかもボタンを全部なくしてる、制服のままで。

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