花晨月夕

40 ページ40

遠くで霞さんと北山くんの会話が聞こえてくる。

「奥の和室にお布団敷いちゃうから、Aちゃんを運んでくれる？」

「え？Aちゃん、泊まんの？
じゃあ、俺も泊まってっちゃおうかな」

「じゃあ、北山くんは２階の空き部屋で寝る？」

「俺もAちゃんと同じ和室でいいよ」

「何言ってんの？
付き合ってもない女の子と同じ部屋に寝かせるわけないでしょうが」

辛うじて動いてる脳内でそんな２人の会話を聞いてたら、なんだか笑えてきた。







「見て、Aちゃん笑ってんだけど」

霞さんの声が聞こえてくる。

…やば、笑ってんの、顔に出ちゃってたのか。

「俺ね…、Aちゃんの笑ってる顔、好きなんだよね」

北山くんの気配が近付いてくるのがわかる。

たぶん今、私の前に座り込んじゃったんじゃないかな。

そしてきっと、私の間抜けな寝顔を覗き込んでるはず。

ああ…、私がこんなに酔ってなかったら、今すぐ瞼を開いて寝返りを打つところだけど。

それが出来ないほど泥酔状態なのが悔しい。

「たまに夜中に起きたりするわけよ、Aちゃん家に泊まってて
隣で寝てるAちゃんの寝顔とか眺めてたらさ、すごい幸せな気持ちになるわけ
んで、じーっと見てたら、たまに笑ったりするから
それを見てるだけで、この子のこと守ってあげたいなあとか、純粋に思っちゃうんだよね」








「何それ、惚気(のろけ)てんの？」

「うん、惚気てる
Aちゃんの寝顔は、俺しか知らないからね」

「それは、北山くんの思い込みじゃない？
私だって知ってるわよ、Aちゃんの寝顔
それにAちゃんの元彼だって知ってるはず」

霞さんのそんな攻撃すら、北山くんは鼻で笑って躱している。

「そっか、霞さんってAちゃんの元彼のこと知ってんだ
どんな人だった？元彼」

「うーん…、真面目な人」

「それだけ？」

「まあＴ大の研究者なんて皆、癖が強いから
その中ではまともな感じだったかな」

「まともって、酷くね？」

「いや、それほど変わり者が多いから
研究のことしか考えてなくて、恋愛に縁遠い系の人が多いからね
その中でも、彼はまともだったよ」

霞さんの言いたいことはよくわかる。

確かに彼はまともだった。

真面目だったし、私とも真剣に付き合ってくれてた。

でも今思えば本気で好きだったのかなと思えるほど、遠い人になってしまったけど。








「その元彼、ちゃんとAちゃんのこと大事にしてた？」

41→←39

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す