花晨月夕

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「なんかずるくない？
１ヶ月も会わなかったのに、Aちゃんは意外と平気そうだし」

…なんだ。

さっきから、そんなことで不機嫌になってたんだ。

可愛い。

愛しさが爆発した結果、彼の背後にそっと降りて、その可愛い後頭部ごと、ぎゅっと胸に抱きしめた。

「…何してんの？」

腕の中で聞こえてくる不貞腐れた声。

知ってるよ。

嫌いでしょ？こういうことされるの。

その割には、全然嫌がってないみたいだけど。









「今日は泊まってく？」

そう訊ねたら、

「…そうする」

まだ不貞腐れてる彼の声が聞こえてくる。

「本当はそのつもりで来てたんじゃないの？」

そんな意地悪にさえ、

「…まあ、そうだけど」

不貞腐れながら答えてくる彼は、可愛いの何物でもない。








私の腕を振り解くかのように抜け出した彼は、真顔になってこんなことを言い出した。

「Aちゃんは？
俺に会いたくなかった？」

「会いたかったよ」

「何で？」

「話したいことがいっぱいあったし」

「でも、電話しようとは思わなかったわけじゃん？」

「うん、だって約束したから
北山さんの仕事の邪魔はしたくないし」

「それって、何で？」

…何で？

今日の彼は、難しいことばかり聞いてくる。









「嬉しいことや、悩んでることは、一番に北山さんに聞いて欲しいって思うけど
北山さんの仕事は特殊だし、急に電話とかして困らせたくない」

「…もう十分、困らせてんじゃん」

ボソッとまた低音で呟いた彼は、

「なんか俺ばっか、Aちゃんに振り回されてない？」

とか、訳の分からないことを言い出した。

よく言うよ。

さんざん、私のことを振り回してるのは彼の方じゃん。

「北山さんだって、私のこと振り回してるよ」

「そうかな？」

「そうだよ
お互い様じゃん」

そう言い返したら、やっと彼は笑ってくれた。

今日の彼は、長い仕事が終わったこともあって、情緒不安定になってるのかもしれない。








「明日は？
Aちゃんは仕事？」

「うん
朝の8時半には出るから、このまま寝てていいよ
北山さんは何時から？」

「俺は明日はオフ
夜に打ち上げがあるだけ」

いつもと同じように一緒にベッドに入り、さんざんピロートークをして寝た翌朝、

彼は熟睡してたから、そのまま起こさずに部屋を出た。

まるで恋人関係みたいじゃん、私達。







だけどその夜、まさか彼が打ち上げからそのままうちに戻ってくるなんて、予想もしてなかった。

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