花晨月夕

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「考えてたよ」

わざと軽く、そう伝えてみた。

冗談として、話が流れてしまうように。

彼は食い入るように視線を浴びせてくるから、それが怖くて目を逸らした。

こういう時の彼の視線は本当に怖い。

心の奥を抉り取りそうなくらいに、本心を読み取ろうとしてくるから。









「そうだ、報告があるんだ」

その視線が怖くて、話を逸らしてみることにした。

「…何？」

彼は不満げな声で、それでも食いついてくる。

「仕事、続けられることになったよ
１年だけだけど
だけどその延びた１年で、これからのことをしっかり考えようと思う」

わざと自信たっぷりにそう言い切ったら、彼は本当にうれしそうにくしゃりと笑っては、

「やったじゃん！」

まるで自分のことのように喜んでくれるから、つい、気が緩んだ。

「これでまた、北山さんといられる期間が延びたね」

そう言った途端に、彼の顔からするすると笑顔が消えて行った。









「それ、どういう意味？」

「どういう意味って？」

「Aちゃんは俺と居たくて、東京に残る道を選んだとか？」

「違うよ
ちゃんと自分のことを考えて、東京に残ることに決めた」

「だから、それってどういう意味で？
俺と離れることがあるかもっていう意味で、言ったわけ？」

さっきまで喜んでくれてたのに、急に不満げな声でそんなこと言ってくる彼は、

一体今、何を考えてるんだろう。

私達はまだお互いに、本心を話せてないのかもね。

私はけっこう心を開いてるつもりなんだけど、やっぱり彼には隠していることも幾つかあって。

それはきっと、彼も同じなんだろうな。

本音で話してるように思えて、実は表面上の会話しかできてないのかも。

「もしかしたら、そういう可能性もあるかもしれないから
私のやりたい仕事は東京にはないかもしれないし、もしかしたら海外に行くって可能性もあるかもしれない」








「そうなったら俺ら、もう会えなくなるってこと？
Aちゃんは、俺ともう会えなくなることを覚悟しながら、俺と会ってるってこと？」

不機嫌な横顔でボソボソとそんなことを言ってくる彼があまりに愛おしくて、

もし私達が付き合っていたのなら、迷わずにその頭ごと抱き寄せることができるのに。

もどかしいな。

大体、北山くんから言ってきたんじゃん。

親友以上恋人未満って。

最近の北山くんは、その枠からはみ出そうとしてるようにしか思えないんだけど。

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