花晨月夕

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「ないです」

そこは、はっきり伝えておかなきゃ。

本当は今まさに、その恋愛感情に苛まれているところだけど。

そんなことを伝えてしまったら、霞さんはどんな行動に出るか予想がつかないから。

「ふーん、素の北山くんはAちゃんの好みじゃなかったってわけか」

霞さんはそんな私の言葉も、あっさり鵜呑みにしてくれる。

「まあ、北山くんと付き合うとなると、なかなか面倒だろうしね」

なんて言いながら。









その夜、残業で少し遅くなった私は、スーパーでお惣菜を買い込んでマンションまで帰ってきた。

自転車置き場でふと上を見上げた時に、変な違和感を感じて、二度見してしまう。

...あれ、私の部屋、電気ついてない！？

その時は彼に合鍵を渡したことなんかすっかり忘れてて、電気を消し忘れて出掛けたのかと思い込んでたんだけど。

玄関のドアを開けてすぐ、見慣れない靴が置いてあるのに気がついた。

「おかえりー」

この間と同じ場所に座って、いい感じにくつろいでる彼が私に向かって手を振っている。

机の上にはビールが載っていて、

「今日、遅かったんだね」

なんて言ってくるこの風景は、まるで長年同棲しているカップルのようで。

一瞬だけ、妄想のような錯覚を起こしてしまった。

「何でいるの？」

「LINEしたじゃん
見てない？」

そう言われてスマホを見たら、本当に彼からのメッセージが入っていた。

『今日、行っていい？』

『この間みたいにデリバリーする？
とりあえずビールは買ってく』

本当だ。

今日は忙しかったから、LINEなんて見てなかった。








手に提げてるレジ袋を見つけた彼は、

「何買ってきたの？」

とか言いながら、袋の中身を机に上に出していく。

今日はけっこう無防備な感じだな。

いつもなら、会ってしばらくは遠慮がちなのに。

既にほろ酔いだから？

とりあえず買ってきたお惣菜を全て並べて、私達のディナーは開始した。

「今日は、ちょっと話があって来たんだけど」

食べ始めてすぐにそんなことを言い出した彼は、

「まあ、電話で済む話なんだけどね
Aちゃんに会って話した方がいいのかな、と思って」

とか、変な前置きをしてくる。

私的に、嫌な予感しかしないんだけど！！

「しばらく、会えなくなるんだけど
Aちゃんと」

「しばらく？」

「１ヶ月くらいか、もしくはそれ以上」

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