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その日、彼は夜まで滾々と眠り続けた。
私は睡眠飽和状態なわけで、数時間で目が覚めちゃったけど。
だからベッドを背もたれにして、論文のデータをまとめていた。
そして時折、彼の寝顔を眺めてみる。
たまに口が半開きになってたり、寝言みたいな言葉にならない声を出してたり。
だけど一定のリズムで、寝息と共に彼のTシャツの胸が上下するのを見ていたら、急激に幸せな気持ちになれた。
だって、北山宏光の寝顔をこんなに間近で見れる人なんて、そうそういないと思ったから。
夜遅くなったら起こしてあげようと思ってたんだけど、夜の8時になった頃、寝返りと共に彼はようやく目を覚ました。
「今、何時?」
珍しく焦った声で訊ねてきては、
「8時だよ、夜の」
そう告げたら、脱力してまた背中からベッドにダイブしてしまう。
「焦った…
明日、朝の8時入りだから」
「もう帰った方がいいんじゃない?」
そう言ったら、恨みがましい目で私をじっと見てくる。
「…何?」
「起きてすぐ帰れって、冷たくね?」
「だって明日早いっていうから」
「起きたら、腹減ったんだけど」
そう宣言した彼は、スマホを触り始める。
「昼は中華だったから、夜は和食だな」
独り言みたいにそう呟きながら、また画面を私の前に差し出してきた。
「寿司とかどう?
好き?」
「好きだけど…、起きてすぐ食べられる?」
「あー…、俺そういうのけっこう平気」
「食えないネタとかある?」
「基本、好き嫌いはないから」
「いいね
俺、そういう子好き」
さらりと胸を抉るようなことを口にしては、スマホを操作している彼は、
きっと自分の放った言葉の意味に、気付いてないんだろう。
今の彼はきっと、寝起きの無防備な幼児みたいな状態だから。
デリバリーが届くまで、彼はまだベッドでゴロゴロし始める。
スマホでゲームをしたり、背中越しに私のパソコンの画面を覗き込んできたり。
「何それ、数字ばっかじゃん
Aちゃんって、植物の研究してるって言ってなかった?」
「染色体の数や変化を数値にしてるから、こうなっちゃうんだよ」
「それ、いつ完成すんの?」
「とりあえず…、今年の冬をめどに」
「それが終わったら、Aちゃんの仕事はなくなるわけ?」
急に彼の声のトーンが低くなる。
「もしかしたら、東京から出て行っちゃうかもってこと?」
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りたわかめ(プロフ) - えぴさん» ありがとうございますm(__)m (2022年1月2日 21時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
えぴ - ほんとにリアルすぎて最高です! (2022年1月2日 18時) (レス) @page21 id: 06d564cdce (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - えりさん» 本日、移行いたしました。えりさんをドキドキワクワクさせられますように(*'ω'*) (2020年2月7日 23時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - renaruriさん» 更新いたしました。ちょっと急展開になってるかもです(/ω\) (2020年2月7日 23時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
わかめ(プロフ) - moraさん» やったー!いい感じに予想を裏切れてる?私w moraさんの予想を裏切れるよう頑張ります(*'ω'*) (2020年2月7日 23時) (レス) id: 9f29bca2de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わかめ | 作成日時:2019年9月28日 20時