花晨月夕

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最近、北山くんはずっとこんな感じだよね。

まるで口説いてるかのような言葉を口にしては、私の反応を覗ったり。

もう夜も遅いのに、私達は肌寒い空の下、並んで月を見上げながら際どい会話を繰り返している。

「気付いてる？
俺、さっきからずっと口説いてんだけど」

冗談とも取れるような言い方でそんなことを言われても、私の心はチクリとするだけ。

まだまだ、動かない。

「北山さん、だいぶ酔ってる？」

だから私は冗談にしてあげることにして、その言葉を躱した。

どう？私だって、大人の対応ができるんだから。

なのに後頭部を強引に引き寄せて、いきなりキスしてくるとか。

彼は意外にも、なかなか負けず嫌いだ。

そして、そんな北山くんの唇からは、さっきまで吸っていた煙草と、苦いビールの味がしていて、

それすらも美味しく感じる私は、もう彼の唇に慣らされかけている。









それは、意外にも長いキスで。

私達は部屋から死角の位置にいるけれど、

不意に誰かが窓から顔を覗かせたらどうしようかとか、最初はそんなことばかり考えてしまっていた。

何度も角度やテイストを変えて繰り返されるキスは、私の頭の中を真っ白にさせる。

強引に北山くんの世界に引きずり込まれてるような、そんなキスで。

少しでも気を抜いたら、もう後はなし崩しに全てを許してしまいそうな、そんな雰囲気の。

唇を離したあと、名残惜しそうにおでこをくっつけてくるのは、

きっと彼のくせなんだろうな。

至近距離で見る、隠しきれてないドヤ感の溢れた目だとか。

余韻を残しつつ、

「ざまぁみろ」

とか、含み笑いでおでこをコツンとぶつけては、体を離すその仕草だとか。

本当にこの人は、バカみたいに愛おしい。









「Aちゃんてさ、本当に何しても怒んないね」

「どういう意味？」

「こんなとこでキスされたら怒るだろ、普通
しかも、付き合ってもない男と」

よく言うよ。

いつも怒る暇も与えないくらいに強引で、その癖文句も言わせないくらいに可愛らしく甘えてくるくせに。

「Aちゃんは、何やったら怒んの？
どこまで許してくれんの？」

「そんなの、聞いてどうするわけ？」

なのに彼は、

「今後の参考にする」

すました横顔を見せながら、おいしそうにビールを口にする。

そんな際どい境界線の話なんか、私が簡単に話すと思う？

その余裕綽々な横顔を崩して愛を乞わない限り、私は北山くんには何も教えてあげない。

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