花朝月夕

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霞さんがタクシーを呼んでいる間、朋を脇道に連れ込んで、とりあえず状況を説明することにする。

「朋に言っておかなきゃいけない話がある」

「…何？」

怪訝そうに眉をひそめた朋に、手短にこう伝えた。

「これから行く場所に、さっきの人達がいるんだけど
その中に…、北山くんもいるんだ」

朋は今まで見たことないくらいに目を見開いて、

「やっぱり今の、北山くんだったんだ？」

なんて大声を出すから、慌ててその口を塞いだ。

「いいから、今から言うことを黙って聞いてくれる？
私も朋もキスマイなんて知らないし、当然北山くんのことも知らない
ファンだなんて、絶対悟られないように完璧に演技してくれる？」

「…いいけど
霞さんも知らないわけ？
Aが超古株北山担だってこと」

「言ってない
だからお願い、うまいことやってくれる？
朋、そういうの得意でしょ？」

そんな話をしているうちに、

「Aちゃん、もうすぐタクシー来るって」

霞さんが顔を覗かせたから、そこで作戦会議は強制終了になってしまった。









タクシーの中、霞さんは朋に言いにくそうに切り出す。

「あのさ、朋ちゃんはジャニーズとか好きな感じ？」

ああ、これから北山さんのことを打ち明けるんだなって思ったら、勝手に緊張してくる。

「ジャニーズとか、あんまり詳しくなくて」

大人びた微笑みを浮かべながら、朋は小首をかしげる。

…さすが、百戦錬磨のやり手営業女子。

「あのね、これから会う人の中に、ジャニーズの子がいるの
でも本人はあまり気付かれたくないみたいだから、そっとしておいてあげてほしいんだけど」

「大丈夫です
たぶん、顔を見てもわからないと思うんで」

完璧だ…。

そんな朋の自然な振る舞いに、霞さんも完全に信じ込んでる。









久しぶりの霞さんの家。

しかも初めての室内での集まりなわけで。

朋のこともあって、私は過剰に緊張していた。

リビングには掘りごたつとテーブル席が用意されていて、北山くんは既にこたつに入っていて、

私を見つけるとすぐに、さっきみたいに目を細めて、

「久しぶり」

って、大人っぽく微笑みかけてきた。

「お久しぶりです」

平静を装って私も軽く会釈をしてみるけど、正直、目を合わせることなんてできなかった。

北山くんが私だけに微笑みかけてくれてる。

それがどんなに贅沢なことなのか、私にはまだよく理解できてないみたいだ。

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