花朝月夕

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「今思えば、Aが年越し直前に聞いてきたこと、あれ、ガチだったんだね」

行きの電車の中、朋はそんなことを言い出した。

「ガチだけど、ガチじゃない」

「ガチじゃん
本当にあの人に会ってたんだから」

電車の中だからか、朋は固有名詞を使わずに「あの人」という呼び方をする。

「だって私は恋愛感情なんて持ってないし」

「まあね
でも本当に今日が最後にできる？」

「できる」

自信はないけど。

だって毎回彼に会う度そう誓ってるのに、意志の弱い私はつい流されてしまい、

また彼に会っちゃって、ドキドキさせられて自己嫌悪に陥ってる状態だから。









そして私達はまた、あの家に戻ってきた。

まだ彼は来てなくて、私達はまたあのテーブル席で他の人達と談笑したりなんかしてたけど。

なんだろう、胸がざわざわする。

これから彼が来るんだと思ったら、ドキドキしすぎて今にも叫び出しそうなくらい。

「お邪魔しまーす」

玄関先から彼の声が聞こえてきても、私は気付いてないふりで朋と話していた。

彼はまず友達のところへ行って話し込んだあと、飽きてきた頃に私をからかいにやってくるのがいつものパターンだから。

なのに、今日は何でいきなり私の隣に座ってくるわけ！？

「席、ここしか空いてなかった」

とか言い訳でもするように、笑い掛けながら。









「はい、これお土産
昨日、帰省してたから」

霞さんに紙袋を渡したあと、

机の下で、彼はこっそり私の手のひらに何かを握らせてきた。

「これはAちゃんにお土産
こっそり鞄にしまっといて」

なんて、大人びた顔をして小声で囁いてくる。

こっそり机の下で覗いてみたら、それは神社の紙袋に入った御守りだった。

「…恋愛成就御守り？」

「Aちゃんが早く幸せになれますように」

まだ酔ってない彼はオフィシャルな作り笑いのまま、大胆にも私の手のひらをぎゅっと握り締めてきては、

「早く鞄にしまわないと、運が逃げちゃうよ」

なんて、脅すようなことを言ってくる。

…これは、本気でしんどいパターンだ。

もし私が本気で彼のことを好きだったら、こんな思わせぶりな行動に一喜一憂して、精神崩壊してしまいそうなくらいに、しんどいやつだ。









隣にいる朋はきっと、そんな私達のやりとりに気付いてるはず。

どうしよう…。

手とか握られちゃったよ！

完全無自覚でこんなことをしてるのなら、彼は本当に史上最強の悪人だと思う。

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