ショコラアレルギー chapter10

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８月。

外はセミの声がうるさくて、うだるような暑さ…、のはず。

だってワンルームのこの部屋は、閉め切られたままでエアコンが効いている状態で。

全く夏を体で感じることもなく、ただ怠惰に過ぎていく時間。

あまりに退屈で死んじゃいそうだよ。

さっきからベッドを背もたれにして、分厚い育児書を読んでいる渉の頭に触れてみる。

髪を撫でたり、指に巻き付けたりしてるうちに、

「…何？」

不機嫌そうな渉の声が聞こえてきて、ますます私は我慢がきかなくなってきた。









「超、暇。」

「テレビ見てんじゃないの？」

本に視線を落としたままそんなことを言ってくる渉が憎らしくて、今度はその髪を引っ張ってみた。

「…何がしたいわけ？」

ようやくこちらを振り返ってくれた渉に、こんな我儘を言ってみる。

「添い寝して。」

「添い寝？」

そんなに、あからさまに嫌そうな顔しなくてもいいじゃん。

だって渉だって暇なんじゃないの？

「お昼寝したいのに、気分が落ち着かなくて寝付けない。」

大げさにそう訴えれば、ため息とともに渉がベッドにそっと乗ってきた。









お腹が大きくなってきたせいで、仰向けで寝るのが苦しくなってきた最近の私は、横向きで寝ることが多くて。

だから横向きのまま、渉に抱きつこうと思ったのに。

「壁の方向いてくれる？」

って、冷たく言い放たれてしまった。

「何で？」

「お腹、危ないから。」

仕方なく壁の方を向くと、渉は恐る恐る後ろからやんわりとハグしてくる。

「これでいい？」

って、義務感たっぷりな言い方で。









「これだけじゃ寝れないよ。
何か話して。」

どう？かなり我儘でしょ？私。

なのに渉は怒らない。

この間言ってたもんね、「妊婦の精神状態は胎児に影響するらしい」とかって、難しい顔をして。

だからなのか渉は、いちいち口うるさくはあるけど、私がどんな我儘を言っても大抵は聞いてくれるようになった。

「お腹、また大きくなった？」

渉の暖かい手のひらがお腹を撫でる。

それがくすぐったくて、変な気分。

しばらく撫でてたら、ピクピクと胎動が始まって。

それを手のひらで感じながら渉は、

「…本当にここにいるんだな。」

なんて、ボソリと呟いた。









真夏の昼下がり、気怠い空気が部屋中に漂う中、

渉は厳かに私の頬にそっと唇を寄せた。

「ありがとう。」

聞こえないくらいの小さな声で、そんな感謝の言葉を口にした渉は、

再び私のお腹を撫で始めた。

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