ショコラアレルギー chapter10

454 ページ4

「もう決めたことだから。
俺は自分の研究よりも今は、Aの妊娠生活とその後の育児の方が大事だから。
自分の人生の中で、Aと子どものことが最優先だって思うことは普通なんじゃない？」

「普通の人はそうかもしれないけど…。
渉は普通じゃないじゃん。」

「何それ。」

呆れ笑いの渉は、パジャマの上から私のお腹に手を乗せた。

途端、ぐにゃりと奇妙な感じにお腹の中が動く。

「…あ。」

声を上げた私に、渉は至って冷静に、

「もしかして胎動なんじゃない？」

そう言って、ほんの少しだけ眉をひそめた。

あ…、今感動してるんでしょ？

そんな小難しい顔をしてても、私にはわかるんだよ。

最近、たまにこんな風にお腹が変な風に動くことがあったんだけど。

胎動だってことすら、あまり意識してなかった。

渉はずっとお腹に手のひらを乗せたまま、次の胎動を待ってるのが面白くて、

そんな様子を見ているだけで、私もじわじわと感動してきた。









「あと５カ月後には生まれてくるんだよ。」

そう話しかけても、

「知ってる。」

素っ気なく答えられる。

「もしかして、生まれるまでずっと、ここに入院することになったらどうしよう。」

そんな気弱な私の呟きに、ようやく渉は私のお腹から手を離した。

「そのことなんだけど。
昨日、先生といろいろ相談してて。
家に連れて帰ることは可能だって。」

「ほんとに？
でも、家って東京の方？」

「当分はね。
安定期に入ったら、向こうの家に帰る許可ももらった。
だけど、長距離移動が心配だって。
状態が落ち着いたら、帰れることになりそう。」

なんだ…、よかった。

ずっと心配してたんだ。

このままここから出られなかったらどうしようって。








「とりあえず、東京の部屋に帰って通院して、ＯＫが出たら、向こうに帰ろう。
退院の条件は、絶対安静で身の回りの世話をしてくれる人がいるってことらしいから。」

「だって、渉は仕事があるじゃん。」

「留学期間は休職扱いになってるから、１０月の半ばくらいまでは休める予定だし。」

渉と会話をしているだけで、どんどん気持ちが楽になっていく。

もっと早く、渉に妊娠のことを告げればよかったのかな。

そうしたら私は、もっと赤ちゃんのことを可愛いと思えたはずだし、１人で思い悩むこともなかった。

だけど、１人で頑張ってきた自分のことも、今は誇りに思えるんだ。

455→←453

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す