ショコラアレルギー chapter10

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昼食が届いた頃にはもう、食事どころではなくなってきた。

あんまり私が痛がるからか、渉はナースコールを押してしまう。

内診してくれた助産師さんから、とうとう、

「じゃあ、分娩室に行こうか。」

そう言われた途端、一気に力が抜けてしまった。

ようやくこの終わりの見えない痛みから、開放されるんだ。









車椅子で分娩室に運ばれている最中、

「立ち会ってもいいですか？」

看護師さんにそんなことを言っている渉の声が聞こえてきた。

…は？立ち会うの！？

そんなこと今まで言ってなかったじゃん。

だけどそんな文句を言う余裕もなく、分娩室に運ばれてしまう。

そこから先のことは、正直あまり覚えていない。

「分娩室に入ってからも、産まれるまで２時間くらいはかかるんだって。」

前に渉がそんなことを言ってたっけ。

しかも、

「初産は時間がかかるらしい。」

とかも。

ああ、こんな時に限ってそういうマイナスなことしか思い出せないとか。

もうすぐ赤ちゃんに会える喜びとか、そういうことを考えたいのに、

そういう余計な情報ばかりが浮かんでしまう。









だけど私があんまり痛がるからか、渉の希望で途中から無痛分娩に切り替えてもらった私は、

麻酔が効いて１０分も経たないうちにスルリと出産を終えてしまった。

あれ…、こんなに簡単に産まれるもんなの？って思うくらいあっけなく。

胸の上に置かれた赤ちゃんは、可愛いとか思うより前に、

この子がずっとお腹の中にいたのか、っていう感覚で。

しげしげと頭の先から指の先まで観察してしまう。

目とか、渉に似てない？

赤ちゃんのくせにやたら長い指とかも。

「娘って、お父さんに似るって本当だね。」

ぽつりとそう漏らしても、渉からの返事はない。

振り返ったら、渉は何故か無表情でフリーズしてる最中で、

「渉？」

そう名前を呼んだら、ようやくこちらを向いてくれた。








「なんか…、違う世界に旅立ってた。」

「何？違う世界って。」

「この子が初めて歩く場面とか、小学校の入学式とか、
反抗期とか成人式とか想像しちゃってた。
最後はこの子と腕を組んでヴァージンロードを歩くところまで、一気に。」

驚いた！

スケールが違い過ぎる！

私なんかこの子に会えたことを客観的に感動してただけなのに、一気にそこまで想像しちゃう？

今、産まれ出てきたばかりなのに。

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