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「何やってんの、傘もささずに。」
びしょ濡れの私に頭からバスタオルを被せた北斗。
ふわっと広がる柔軟剤の香りが懐かしかった。
...いつぶりだろう、この部屋に来るのは。
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雨の中私を見つけた北斗は、何も聞かずに家に入れてくれた。
自分がどこにいるかなんて考えずに歩いていたから、そこが北斗の家の近くだったことにも気づかなかったらしい。
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黙ったまま、濡れた身体を拭くこともしない私を見て、北斗は呆れたようにため息をついた。
「...身体冷えるでしょ。」
頭に被ったタオルで無造作に髪を拭かれる。
何を話すわけでもない、この静かな空間が今は心地よかった。
「風呂入る？」
『入りたい、かも。』
いつもなら遠慮しただろうけど、心も身体も冷えきっている私は気づけばそう答えていた。
一瞬驚いた顔をした北斗。
でもすぐに小さく頷いて、
「わかった。ちょっと待ってて。」
浴室の方に向かっていった。
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『お風呂ありがとう。』
置きっぱなしにしていたスウェットを温まった身体に着せてリビングに出ると、北斗がソファでスマホをいじっていた。
私に気づくとおもむろに洗面所へ。
戻ってきた彼の手にはドライヤーが握られていた。
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「ほらそこ座って。」
言われるがまま床に体育座りをすると、背後から大きな電子音が鳴り響く。
慣れた手つきで手際よく乾かされる髪。
なんだかドラマのワンシーンみたい、なんて
そんなことを考えられるぐらいには気持ちが落ち着いていた。
「Aって髪綺麗だよね。昔から。」
『...そうかな。』
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空気が甘ったるくて胸焼けしてしまいそう。
知らない人と話しているような感覚がするけど、
時折見せる不器用さはやっぱり北斗のものだった。
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作者名：渓徳 | 作成日時：2022年11月8日 0時
