もうわたしは ページ47
とんとん…
「はい?」
平「失礼します」
「平太さん」
夕方、わたしの部屋にやって来た平太さんは
テーブルにお茶とお菓子を置いて
わたしに笑い掛けた。
平「平太でいいですよ。
主人の奥さまになられる御方なのですから。
朝から挨拶周りに、下人と屋敷の紹介と
眼紛しかったでしょう。お疲れ様でした」
「ありがとう…。
仕事先もあれで全部ではないんですものね、
下人さんも名前を覚えられるか…。
改めて、すごいところに身請けされたのだと
今はただ呆然としていました」
平太さ…、平太はお茶を差し出しながら
失礼します、とわたしの前に座った。
平「旦那さまは忙しいので、
何かあれば、俺に言ってください。
旦那さまにも気に掛けてやってくれと
仰せつかってますから、遠慮なく」
「…そう。あ、わたしの荷物は
どこにあるのか知ってますか?」
平「ああ、それなら後で運びましょう、
ですが、四辻さまの命(めい)で
必要なモノは全て新しいモノを買ってやれ、と」
「え、勿体ない…」
わたしが思わず、呟くと
平太は眼を丸くし、ぶはっと吹いた。
平「旦那さまの仰る通りだ!
普通、こんな屋敷に嫁いだら
豪勢にしてもいいものなのに…。
それに、Aさんは自身でも
稼がれていたんでよね?物欲がないのですか?」
「そ、そうね…必要なモノしか
買い揃えなかったかな…。
吉原だけが生活区域だったから」
平「…変わった方ですね。
旦那さまが選ばれた方が
Aさんでよかった」
「…?ありがとう?」
平「正直、買い与えろ、にも他意があるんですよ。
これだけ、多方面で活躍してると
厄介方もついて回ります。
外から入った人はもちろん、モノにまで
注意するものなのです。なので、
新しく揃えて欲しいという意味もあります」
「そういうものなのですね…。
あ、じゃあ、携帯は…、」
平「それが一番です。
既に新しい携帯を用意していますので
古い物は引き渡しました」
「え…っ!?」
銀時さんとの電話の約束を
まだ果たせてなかったわたしは
名刺も手元になく、
登録していた番号頼りだったのに。
平「マズかったですか?!
旦那さまが良いと仰ったので、
了承済みだとばっかり…」
どうしよう、と青ざめる平太の顔に
慌てて、取り繕う。
実際、嘘ではないのだから。
「あ、…いえ、大丈夫。
大して使ってなかったから…」
外出した際に謝りに行こう。
もうわたしは
友人として、逢いに行けるのだから。
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作者名:美雨 | 作成日時:2019年2月27日 23時