焦り ページ23
わたしの膝枕で落ち着いたのか、
閉じられた瞼が長い睫毛の影を落とす。
遊女たちがわたしをいびるのは
ほとんど、四辻さまが理由なんだけどな…。
誰もが、相手をしたがる唯一の客だ。
一体なぜ、わたしを
気に入ってくれているのか分からないけれど
初めて、この店に来た時に
お相手をさせてもらって以来、
ずっとわたしを選んでくださるのだ。
「……四辻さま、
しばらく来れないと言うことは
また遠征に行かれるのですか？」
四「んー…ああ」
「今度は…どちらに？」
何気なく、いつも通りに聴いた。
だけれど、
ゆっくり開かれた眼の奥の鋭さに
思わず、たじろいだ。
しまった。
「あ！…ごめんなさい。
踏み入り過ぎました」
四「はは、何を言う。Aなら構わんよ。
次は大阪に名古屋に……
西の方を休む間も無く、回るんだ。
あー考えたくもない」
一瞬、感じた強い眼は
再度閉じられ
いつも通りの四辻さまが
その額に手を当てて首を振る。
「すみません。
わたしが聴いたばっかりに…」
四「……いや、いいよ。
土産を買ってきてやりたいと思って居たんだ。
一週間かけて行ってくるから、
最後に回る、京都で何か買って来よう。
何が良い」
「……京都。行ったことがありませぬ故、
四辻さまにお任せ致します」
四「おっと、センスが問われるな！」
「楽しみに待っていますね」
ほっと、胸を撫で下ろし
細い茶色い髪に指を絡めていると
わたしの首に手を伸ばし
その身をそっと持ち上げ、キスをした。
四「もっとこうして、
ゆっくり話していたいのだが
あまり時間がなくてな」
「……ええ」
触れる指も唇も熱も、
感じる全てが優しいのは
一夜のモノだと理解していながらも
勘違いしてしまう程で
四「覚えておいてくれ。
逢いに来れない夜も、
声を…、温もりを…」
行為の中、囁かれる言葉は
いつも切ない。
四「私は、ひどく…ひどく、
Aに溺れてしまっている。
どんなモノも、止められぬ程に…」
荒く漏れる息に交じり、
わたしの耳に囁く
その声に、今夜はなぜか
焦りが滲んでいるように感じた。
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作者名：美雨 | 作成日時：2019年2月27日 23時
