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私にとってお前は ページ22

?「久しぶりだね、A」



いつも、この笑顔に
少なからず、癒されているのに



?「バタバタしていてね、
またしばらく、来れなくなるから
その前に逢いに来た」



今日は土方さんの言葉が
頭を過ってしまう。



「時間を割いてまで、
わたしに逢いに来てくれるなんて
嬉しいです、四辻さま」


四「お前にとって、私は
客の一人に過ぎんだろうが、
私にとってお前は
心を奪われた女性なのだよ」



そう言いながら、優しく微笑み
わたしの肩を抱き、自身の胸に引寄せる。

歳は確か、30歳だと言っていた。
この歳で自身の医院や会社を持っている。
いつも優しく、落ち着いていて
どこか余裕がある立ち振る舞いだ。
背や指が長く、男性なのに
美しいと表現される出立。
わたしにこんなこと言ってくれるけど
外でも大層、おモテになられるのであろう。



四「それとも、他の客に
Aの心はもう
奪われてしまったかな?」



わたしの顔を覗き込み、
口角をいじわるく上げる。
男の人なのに、綺麗な肌だなぁと
ぼんやりと眺めながら、
わたしも真似をして唇を動かす。



「あら、どうお想いですか?」


四「ははは、一筋縄ではいかんな。
やはりAと話している時が
一番自分らしく居られるよ」


「自分らしく?」


四「ああ。Aもそうだろう?
仕事相手には自然と演技するものだ。
私はいつも仕事相手が傍に居たり、
連絡を取り合ったりしているからね。
周りが作り上げる、四辻宗介を演じなければならない」


「日々、追われているのですね…」


四「だから、どんなに忙しくとも
Aに逢わねば、触れられねば
自身が消えてしまいそうでな。
こうして、秘書たちを巻いて来てしまう。
Aはどうなのだ?
ここに来て、あー、何年だったかな…?
お前より、早く居た遊女を抜かし
早々に太夫へと上り詰めたんだ。
女の世界はどろどろしていそうだ」


「5年になりますが、
わたしは上り詰めた訳じゃなく
鳳仙殿に言われ、この立ち位置になっただけで。
まあ、決まったお客様しか相手にしなくていいので
遊女たちには快く思われないのも仕方ありません」


四「っふ、その若さで
随分と物分かりがいいと来た。
っはあ、いいな。ほんとに
Aといつまでもこうして居たい。
いつも傍に居て欲しいものだよ」



四辻さまはごろん、と
わたしの膝に寝転がり
切れ長な眼を細めながら
漏らすようにそんなことを言った。

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作者名:美雨 | 作成日時:2019年2月27日 23時

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