それを恋と呼べぬまま【万葉】完結

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数分と経たず焼き魚も仕上がり、
拙者は有難く彼女特製の御膳を頂いた。

その間に彼女は湯浴みに向かったので、
黙々と食しているのだが、これがまた
身に染みる美味さで、思わず目を瞑り
じっくりとその味を堪能した。


浪人になるからと、実家にいた頃
多少は料理の練習もしたのだが
やはり付け焼き刃。

まだまだ回数を重ね、腕を磨く必要性を
ひしひしと感じていた。

あの少女は拙者より若そうに見えたが、
拙者よりも料理が巧みであった。
きっと幼い頃から母親に習っていたのだろう、と
尊敬のようで少し羨ましいような気持ちを抱いた。


丁度良い塩加減の焼き魚も、粒が立った米も
しっかりと漬かった大根のぬか漬けも
わかめと豆腐の味噌汁、ひじきと大豆の煮物も
あっという間になくなってしまった。

こんなにちゃんとした食事を摂ったのは
浪人になってから初めてで、
一種の感動すら覚えていた。


とても良い縁に巡り会えたことを
噛み締めていれば、湯浴みを終えた少女が
髪を手拭で優しく挟みながら戻ってきた。


「わあ、完食してくださったんですね」


湯のせいか少し赤くなった顔で少女が微笑む。


「どれもとても美味しかったでござる。本当にかたじけない」
「いえいえ。こんなに綺麗に食べてくださって、私も嬉しいです。今お下げしますね」
「いや、片付けくらいは拙者が。台所は冷えるだろう、湯冷めしてはお主が風邪を引いてしまう」


御膳を片そうとしてくれるのを遮り、
食器たちを台所へと運ぶ。
しかし少女は拙者の後ろをついてきていた。

台所は隙間風があり、
雨の降る今日は特に冷える。



「二人でやった方が早く終わりますから」




そう言って、彼女は結局
家事に不慣れな拙者を最後まで手伝ってくれた。

五→←三

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