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片付けが終わったあと、
二人で囲炉裏を囲んで温かい梅昆布茶を飲み、
一息ついた。
そういえばまだ少女の名前を
聞いていなかったと思い、尋ねることにした。
「桜庭Aです。桜の庭で、桜庭……Aで構いません」
「A殿か。良い名前でござるな」
「敬称もいらないですよ。きっと私の方が年下でしょうから」
「ふむ、では……A」
そう呼ぶと、彼女は
満足そうに笑って「はい」と頷いた。
「此度のこと、本当に感謝している」
「ふふ、いいんですよ。突然の嵐でしたし……正直私も、一人で嵐の夜を越すのが怖かったので助かってます」
「……Aは一人暮らしをしているのでござるか?」
そう問うと、Aは少しだけ眉を下げて笑う。
その表情には少しだけ、翳りが見えた。
「はい。……重い話になってしまいますが、実は少し前に両親を亡くしたんです」
「! ……そうだったんでござるか。すまぬ、そうとは知らずに不躾なことを」
「いえ、構いません。ただ、私はまだ半人前で……一人で生きていく術を持ちません。だから来月には、この家を手放すことになっていて」
少し寂しいですけど、と苦笑いして、
Aは物惜しげに戸棚に視線を向けた。
そこには、Aが両親と映っている写真が
二輪の花と共に飾られていた。
「……奉公に出るのか?」
「ええ。海祇島のお寺に行くんです」
彼女は決して、笑顔を崩すことは無かった。
武芸に触れたことのない女子は、
拙者のように旅に出るのも難しいのであろう。
旅は豊かで自由なものだが、
その反面、どこにも保証はなく、数多の危険が伴う。
Aは家業こそ長けているが
とても華奢で、剣などには
触れたことすらないのだろう。
孤児はお寺に引き取られ、
奉公をしながら里親を探す。
拙者も刀を握ることが出来なければ、
Aと同じ道を歩んでいたはず。
「だからこそ、浪人様は凄いです。自分だけで旅をしながら生きていくなんて、私にはとても」
「……拙者もまだまだ半人前でござるよ。現にこうして他人の力を借り、恩恵を受け、生きながらえている。お主と出会わなければ、今夜にでも雷に打たれて死んでいたかもしれない」
先のことなど誰にも分からないが、
浪人とは実に不安定な生き方だ。
とてもじゃないが推奨できるものではない。
しかし彼女が拙者に向けるのは、
温情と羨望の混ざった眼差しのみであった。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
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思雲@誤字る塩(プロフ) - …????????え、夢主ちゃん…????こんな切ない、悲哀系だとは分かっていたけど、ここまでだとは…万葉の言動心理表現が上手すぎですね…!?とても儚い素敵な作品でした…この作品を制作してくださって本当にありがとうございました。これからも創作活動頑張ってください。 (2023年2月3日 0時) (レス) @page33 id: 658471da89 (このIDを非表示/違反報告)
?? ?りく? ??(プロフ) - あれ…目から水元素が…。最高でした。 (2022年12月4日 20時) (レス) @page33 id: 52489b2aa2 (このIDを非表示/違反報告)
ri_syen(プロフ) - もう涙がとまらなくて…( ; ; )最高の小説です (2022年10月5日 21時) (レス) @page33 id: 4f69967d38 (このIDを非表示/違反報告)
こーひー(プロフ) - 涙が...すごい好みドストライクな作品でした。うう...涙が止まりませんでした...切ない... (2022年8月17日 22時) (レス) @page33 id: da21190636 (このIDを非表示/違反報告)
Re:(プロフ) - 午後の紅茶さん» コメントありがとうございます。お名前からして水分が抜けちゃうとえらいことになりそうですね…笑 しっかり水分補給してくださいませ🍵 ありがとうございます、頑張ります! (2022年8月8日 2時) (レス) id: 7f1d8b0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Re: | 作者ホームページ:http://uranai
作成日時:2022年7月19日 16時