それを恋と呼べぬまま【万葉】完結

十二 ページ13

雨足が少しだけ遠のいた夕方頃、
しかし止むことは無い雨を窓越しに眺めていると、
不意に足音が聞こえてきた。

拙者が戸のほうを振り返るのとほぼ同時に、
戸が控えめに叩かれた。


Aはそれまでしていた縫い物を机に置くと、
「はーい」と返事をしながら引き戸の方へと向かう。

そして雪駄を履いて、土間を歩き、
ガラリと戸を開けた。


「あっ、藤川さん！こんばんは、どうされました？」
「こんばんは、Aちゃん。この嵐で大事無いか心配でね、ちょいと顔を見に来ただけなんだけれど」
「ええ、そんな……！ わざわざありがとうございます。藤川さんこそ大事ありませんでしたか？」
「いーのいーの。ええ、私は元気よ。……ああよかった、Aちゃんも元気そうだね」


嗄れた声のお年寄りは、
Aの顔を見るなり
花を咲かせたように笑顔になった。


「こんな天気じゃあ、町に行くのも大変でしょう？ これ差し入れ、さあさ、遠慮なく受け取ってちょうだいね」
「わっ、こんなに……！ いつもすみません、助かります」
「ええ、いいのよ。Aちゃん、たくさん食べて元気になるんだよ。ああほら、こんなに痩せて……」


シワの寄った手でAの腕を擦り、
「可哀想に」と御老人が口にしたとき、
Aはほんの少しだけ、悲しそうな顔をした。


「藤川さん、またいつ空が荒れるか分かりません。送りますから、早く帰られた方が……」
「心配せずとも、婆はすぐ帰るさね。それに送られては、出向いた意味が無いじゃろう」
「ですが……」


空には再び雷雲が集い、
今にも大嵐を巻き起こさんとしている。

確かにこれは危険であるな、と思い
「ならば拙者が護衛を」と申し出る。



「えっ、でも」
「おお……おお！？ なんじゃAちゃん、思ひ人を見つけておったのかい？」
「えっ！？ ……やっ、違います！ 楓原さんは──」
「……楓原……？」



御老人がふと眉を顰めた。
その名に聞き覚えがあったのだろう。


楓原家は有名な武士の家系。


拙者が相手を知らずとも、相手は
拙者を知っているということも珍しくはない。

十三→←十一

• 金　運: ★☆☆☆☆
• 恋愛運: ★★★☆☆
• 健康運: ★★★★★
• 全体運: ★★★☆☆

ラッキーカラー

あずきいろ

おみくじ

おみくじ結果は「末凶」でした！

今日の植物

ハイビスカス

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す