不器用 ページ1
.
「お前ホンマ、顔はええよな」
私の前を歩く幼馴染が淡々とした口調で言ったことを、今でも鮮明に覚えている。
昔、私が幼かった頃、少し歳上の幼馴染にそう言われた。彼は私の中での"おとな"というものだったから言葉の意味を理解した上で言ったのだろう。しかし幼い私は、褒められたと思っただけで、深く考えることなんてしなかった。
──────否、出来なかった。
1歳ずつ"おとな"になるにつれ、幼馴染とは壁が出来てしまい関係は途絶えた。そして私は18歳の大人になり、幼馴染に言われた毒のある言葉の意味もわかったんだ。
「顔だけはいいってこと、だよね」
ぽつり、と呟いた言葉はじわじわと私の心に染み込んでいく。もちろん、顔だけで生きていけるほどこの世界は甘くない。そんな考えはとっくの昔から知っている。けれどその言葉は、ずっしりと心に重く残った。
少しでも心を軽くしたくて友人に思いを吐き出した。すると友人の彼──ショッピは、つまらなそうな顔をして相槌を打った。
「セレナの顔がええのは知っとるし、セレナの中で幼馴染が大事なんもわかる。俺も大事な人おるし。
でも、セレナは自分に自信を持った方がええ。引きずっとったら、その幼馴染の事好きなんかなって誤解されるでしょ」
「………………俺は誤解して、心配したけど」
最後になんて言ったのか、聞こえなかった。いや、私に聞こえないように発した独り言だったのかもしれない。
ショッピは隣にいた私の髪をすくい、先程の真顔から一変してふわりと優しく笑った。まるで慰めてくれているみたいに。ぐっと距離が近くなる。
「髪も顔も、どんどん綺麗になっとる。俺やってセレナと15から3年一緒におったんやし」
「え、あ」
「幼馴染の事ばっか。……存在は大きくても、あんまソイツの名前出さんで」
じっと目を合わせられ、私は無意識のうちに頷いていた。というか、あんな目で見られたら頷くこと以外の選択肢はないと思う。
すると彼は、思い出したように「セレナの幼馴染と知り合いかも」と衝撃的すぎる発言をして本当に驚いた。
「(……あの人の場合やし、可愛ええって伝えたかったけど恥ずかしくて無理やった、って感じやな。要するに照れ隠し。
はあ、嫌な人やわ)」
そんなことを呆れながら思っているなんて、私は全く気づかなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 819人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：かえち
| 作成日時：2019年11月3日 18時
