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「お、わったー」
打ち込みを終え、大きく身体を伸ばす。西川選手は携帯を弄りながら、ずっと待っていた。なぜ待っていたかなんて、知らない。
さて帰ろうと思い、デスクを片づけ、荷物を持つ。待っていた彼も、はよ帰ろ、なんていいながら立ち上がった。
私も同じように立ち上がった、つもりでいた。
「……っ葵、!」
目の前がぼやけたと思ったら、そのまま視界が真っ暗になった。倒れかけた私を、間一髪西川選手が支えてくれた。
呼び捨てをされて傾いた身体は、彼の腕や胸元に支えられた。細身に見せて筋肉質な身体の固さに驚いてしまった。
「葵さん大丈夫?!」
「……う、ん、ごめん」
「真っ白なんやけど、顔」
「立ちくらみがしただけだ、から…大丈夫だよ」
「……」
「西川、選手」
「働きすぎ言うたやろ」
「……」
「その罰や」
「……え?」
そう言われたと思ったら。勢いよく膝裏と肩に回った彼の両手。そのまま躊躇いなく持ち上げられてしまって。所謂、お姫さま抱っこ。
え、まさかこれで歩くの。医務室まで行こうとしてるの。
一気に身体が暖かくなった。
「ちょっ…!や、やだ!降ろして」
「うるさい、暴れんな」
「……っ大丈夫、だから!ね、」
「葵さんの大丈夫は信用ならん」
「…っ、も、もう、働きすぎないように気をつけるから」
「ほう、そんで?」
「きちんと休憩もとるから、あの」
「ん?」
「降ろして、ください…」
「いやや」
「鬼……!」
人が頼んでいるのに、と思いつつ、降ろされたところでまだ目眩が残るのは事実。仕方なく、彼の腕の中で、せめて周りを見ないようにしようと目を瞑る。
「葵さん軽すぎ、」
「…」
「こんなん、少し無理したらすぐ倒れるやろ」
「すぐなんて、倒れないよ」
「…あんな」
「うん」
「葵さんは人の倍頑張りすぎや。少しは誰かに頼った方がええ、」
例えば俺とか、そう笑った西川選手。
不覚にも少し、胸が高なってしまった。あっという間ついた医務室のベッドに寝かせられた。運良く誰にも会わず、大きな騒ぎにならなかった。
「西川選手、ありがとうございました。ご迷惑、おかけしました」
「ええんよ。ちょっと休んで帰ろ」
「西川選手は先に帰ってて」
「は?なんのために待ってた思うてんねん」
「え?」
病人放って帰るほど白状ちゃうで、と頭を撫でてくるこの男に、不覚にもときめいてしまった。
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aoi(プロフ) - りょうさん» りょうさま、こんばんは*コメントありがとうございます。いつもあたたかいお言葉、本当にうれしいです。これからもそう言ってもらえるおはなしを、書いていけたらなあと思います! (2019年11月7日 20時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - 更新ありがとうございます。やっぱりaoiさんの文章大好きです…きゅんきゅんしながら読み返しました。これからも楽しみに更新お待ちしてます! (2019年11月7日 1時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りょうさん» はじめまして*こちらこそ、もったいないお言葉ありがとうございます。これからも読みたいと思ってもらえるおはなしを、描いていければなあと思います!コメントありがとうございました* (2019年10月23日 21時) (レス) id: fdd157f3df (このIDを非表示/違反報告)
りょう - はじめましてaoiさんの野球選手小説大好きで、何回も読みに来てしまっています。また新しいお話を書いてくださるのを楽しみにしています! (2019年10月23日 16時) (レス) id: 087b3fd508 (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - りんさん» コメントありがとうございます*気が向いたら、おはなしを思いついたら、書きたいなあとは思っています。はっきりと言えませんが、また遊びにきてくれると嬉しいです* (2019年7月30日 22時) (レス) id: 3dc625fcb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月18日 23時