師匠と弟子 ページ37
どんなに悲しくても時は進んでいく。
何時までもくよくよと立ち止まっている訳にはいかない。
涙が出そうになるのをグッと堪える。
「………師範…」
「……はっ!…何だよォ。……“師範”でいいのかァ?」
それは呼び方の事だとすぐに分かった。
「任務中なので。甘える訳にいきません」
そうじゃないと私が公私混同してしまって、戦いに集中できない。
「そうかィ」
「…行きましょう」
「あァ」
私の言葉に返事をした彼と共に歩きだそうとした。
その時、突然辺りが揺れた。
「な、なに?地震!?」
急な揺れに戸惑っていると、上から鬼の気配が急速に近付いてくる。
私が気配に気づいた時には、師範に身体を引っ張られていて、その直後に庇うように身を屈めて抱き締められた。
「きゃ…っ!?」
ドォンッ!!と天井から何かが落ちてきた音がする。
元は天井だった筈の細かな瓦礫がパラパラと落ちてくる音に混じって、「女の血ダァ!」「女ァ…!寄越せェ!!」なんて複数の鬼の声。
どうやら私の血の匂いに釣られてやって来たらしい。
直ぐに体勢を立て直して私と師範は同時に刀を抜く。
「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」
背後を振り返った師範が即座に踏み出すと、廊下を抉りながら突っ込んでいく。
「ぎゃっ!」という鬼の悲鳴と共にあっという間に三体の鬼を片付けた。
出番の無くなった私はただ立ち尽くしてその光景を眺める。
やっぱり彼は凄い。
「ぐ…!寄越せェ…!」
体が崩れていく鬼が、足掻くように叫んだ。
その口に刃が突き刺さる。
「お前らにAは渡さねェ」
「っ…!」
低いその声にドキッとする。
鬼の言いなりにはならない、という意味だろうけれど…………
その言い方は、………狡い。
私が抑え込もうと必死になっている感情を簡単に引き出してしまう言葉だ。
「…A、大丈夫だったかァ」
鬼を片付けてくるっと振り返った師範。
「は、はい!平気です!」
“実弥さんが庇ってくれたので………”
その言葉を飲み込む。
そうこうしていると、再び鬼が近付く気配がする。
また、私の血の匂いに引き寄せられている鬼かもしれない。
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月見(プロフ) - 澪凪さん» 嬉しいコメントありがとうございます!お待たせしてばかりですが、更新頑張りますね!最後までどうぞお付き合い下さい(*^^*) (2021年7月29日 21時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
澪凪(プロフ) - やばいです好きぃぃぃぃぃぃぃっ!!頑張ってください、めっちゃ楽しみにしてます! (2021年7月29日 9時) (レス) id: 279a2ef6a9 (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!おっしゃる通り、すれ違いつつもこの辺りから少しずつ二人の距離が縮んでいく予定です(*^^*)のんびり更新ですが精一杯頑張るので、最後までよろしくお願いします! (2021年7月6日 21時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん(プロフ) - めっっっちゃめちゃ面白いですね…実弥さんと夢主さんがすれ違いながらも徐々に近付いていく感じがね!もう、ね!(*´・v・`)いつも更新、本当にお疲れ様です。これからも楽しみにしております!! (2021年7月6日 10時) (レス) id: b998dfb0fd (このIDを非表示/違反報告)
月見(プロフ) - 衣世さん» コメントありがとうございます!小説版読んでいた時に、実弥さんとカナエさん…そうなのかな?と思ったので、「2」で一瞬カナエさんのこと書きましたが、ファンブックで確定したときは驚きました(*_*)まだその辺の下書きがとっ散らかっていますが、更新頑張りますね(^^) (2021年6月18日 17時) (レス) id: 3e917b4f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見 | 作成日時:2021年6月18日 5時