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「行ってきます」
「ひ…こ、殺されるかと思った」
「………さっき石井に電話してたんだから、石井に用があるんじゃ…」
「日波クン黙ろう?俺まだ死にたくないんだ、黙ろ?ね?」
廊下からこちらの様子を眺めていたAに近づく。
その後ろには真白が不機嫌そうに立っていた。
「どうしたんだ?三年の教室まで来るなんて珍し、」
「アンタに用はない。この子が用あるのは石井だ」
「だから?」
「戻れ。石井を呼べ」
「断る。お前が戻れ」
真白との睨み合いが続いていると、Aが「あの」と控えめに声を出す。
「ここじゃあ邪魔がいるから他のところに移動しよう。行くぞ」
「ふざけんな誰が行かすか。……A、一人で教室戻っててくれる?借りてたCDは私が返しておくよ」
「なら俺が送ってやる」
「アンタから引き離すために帰すんだよ」
Aが口を中途半端に開けたまま少しだけ困った顔をして俺と真白を見つめる。
真白なんて放っておいてAを構い倒してやりたいが、中々そうはならない。
ぐう…、俺だってお前と話したい気持ちは十分すぎるほどにある!!
い、いやお前に「岸島先輩と喋りたい」なんて言われたことは一度たりともないが…。
あっ、心が痛い。
真白に文句を言う前に、もう一度ちらりとお前の顔を見る。
どうしようと不安げなままCDアルバムと両手で持つお前が、俺の視界ど真ん中に映る。
瞬間、俺の胸はズキュンと貫かれた。
「ん、んんんんん〜っ♡♡おろおろしてんの超可愛い♡♡」
「死ねえっ!!!」
「ぐふっ!!」
真白の拳が見事腹部にめり込む。
それと同時にAが驚く声を上げた。
次に「岸島先輩!?」なんて、いつもは鬱陶しがっているのにちゃんと俺の心配をしてくれる。
腹を押さえて俯いていた顔を、ちょっとあげるとおろおろした様子のまま俺を見ていた。
「やっぱお前超可愛いな…!はは、はははっ」
なのに俺がそう言うと、お前はすぐさま真白の後ろに隠れてしまう。
真白に目を移すと、ひきつった笑顔のまま拳を振りかぶっていた
「もう一発!!!」
「まっ、真白ちゃーん、さっきうちの担任が真白ちゃん探してたよ!」
「今それどころじゃ…!!!って、あ、数学の提出物…しまった、今日までだ…」
「グッドタイミングだ石井。…いや、正直な話もう少し早く来てほしかった」
一発目を食らう前に来てほしかった。
石井は俺の発言を無視して、真白に教師のところへ行くよう促す。
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年7月21日 17時