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そこにはもう、君の顔が目の前に迫っていて、瞳の中に俺の姿がうっすらと見えた。
彼女の名前を呼ぼうと微かに開いた口。
それを塞ぐように、君は俺にキスをする。
頬に触れた柔らかい髪の毛が、くすぐるように揺れた。
唇が離れると、彼女はまだ近い距離で「これで起きる?」と悪戯に笑う。
「……っ、ん、うん…お、起きる…」
上体を起こして少し乱れた髪を手で整えながら、ちょっとだけ恥ずかしい気持ちに浸る。
自分からねだっておいてなんだけど、やっぱりドキドキする。
基本的いつも渋るくせに、たまにこうしてスッとなんの躊躇いも見せずにやってくるのが凄くずるいと、俺は思う。
…好きだけど。
「…？Aちゃん?」
こっち向いてと言われて、俺は彼女のほうを向く。
すると、さっきより軽い、唇に触れるだけのキスをされる。
「……俺…、俺さ、……、妬いてたんだよ。クロに」
そっか。短い返事だったけれど、君の表情は少し緩んだ。
「…クロと俺、どっち好き?」
ちょっと悩んだ後に出た返答は、どっちも。だった。
君はずっと俺の頬に指を滑らせている。
「俺のこと、好き?」
好きだよ。
酷く優しく聞こえたその声が、言葉が、俺の胸を締め付ける。
パソコンに集中しているときとは違う、気の抜けたような君の表情。凄く可愛い。
「…じゃあ、次はユキって名前呼んで」
相変わらず甘えただね。君が呆れ気味に笑みを見せて、名前を呼ぶ。
そのあと、ほったらかしてごめんと、小さな声で謝る。
「…うん。君は冷たいし…無愛想だし、全然笑ってくれないし、…俺よりクロを優先するけど」
返す言葉もないのか、君は言葉を詰まらせたまま頷いた。
「本当は、不器用で、感情表現が苦手なだけだって知ってるから」
あんまり冷たい態度とられると傷つくけどね。
意地の悪いことを言って、そのあとに今日急に来たことを謝る。
君はまた静かにごめんと謝って、次に来てくれて嬉しいと震えた声で言った。
「…っずるいなぁ」
君は、じっと見つめる俺の視線を遮るように、俺のおでこに手を当て指先で髪を優しく撫でた。
――――
甘い幸福感
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作者名：不雲綺
| 作成日時：2017年7月21日 17時
