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「会長さん?」
体を屈めて、顔を覗く。
顔は窓のほうを向いたまま、目だけが僕を捉えた。
「送ってくって、えっ?」
君は、下校時間になっても止まなかったら送ると言って小さく笑った。
そしてペットの面倒を見るのは飼い主の仕事だからとクスクスと笑い声を混ぜながら言う。
「…そんな良い顔で飼い主だからだとか、僕のことペットとかいうのずるいですよ〜…」
何も言えない。
言葉を詰まらせていると、君はお手と言って右の手の平を僕に向けた。
数秒、その手を見つめた後
「…わん…」
渋々と言った様子でその手に右手を乗っける。
全然嫌ではなかったけれど、素直にやってあげるのもなんだか癪だった。
「…会長さんの手、小さいですね。…指も細い」
雰囲気の流れで手を握りしめようとすると、君はするりと僕の手から逃れて何事もなかったかのように歩き出す。
「…握らせてくれてもいいんじゃないんですか」
待て、だよ。そんなことを言う会長さんの表情は見えないけれど、その声はやはり楽しそうだった。
「待ったら、させてくれるんですか」
会長さんがちょっとでも困ってくれることを期待したのに、君は淡々と勿論だと答えてしまう。
そして、僕の作戦…とはいえないけれどそれに気付いているのか、こちらを見て悪戯に笑った。
クールな顔も、優しい顔も生徒の皆知っているだろうけれど…、
(こんな風に悪戯なのを見られるのは、犬である僕の特権だよね)
素直に振り回されているほうがいいのかも。
半歩前を歩く君を見て、こっそりそう思った。
――――
混じり合った忠誠心と恋心
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年7月21日 17時