白茶 ページ23
名前:ミヅキ
彼女は隣国の姫様。
俺にとっては幼馴染で、許婚。また想い人でもある。
そんな彼女が、また城を抜け出した。
これは別に珍しくもなく、城の者や彼女のご両親がまただと言って呆れるくらいには日常茶飯事なことだ。
幼い頃から、城にいるのは窮屈だと言って城を抜け出しどこかへ行ってしまう。
行く場所は様々で、お店の並ぶ市場だったり、同世代の子供が集まる広場、城やその周辺の街を一望できる高台。
その中でも飛びぬけて多かったのは、城から少し歩いて着く花畑だった。
そこは俺にとってもお気に入りの場所で、二人で一緒のときにはそこでただ座って話をしたり、追いかけっこをしたり、彼女に花の冠を作ってあげたりして遊んでいた。
成長をして俺自身はそこに行くことも少なくなってきたけれど、君はまだその場所へよく行くらしい。
昔からある脱走癖だが、周りは皆成長したら治まると思っていた。
けれど残念ながら、彼女の脱走癖は全く持って治らない。むしろ悪化していると言えた。
(昔とは、違う理由から城を抜け出しているんだろう)
(……姫という立場から、逃げたいとか)
時折見せる苦しげな表情が脳裏に浮かび、そう思った。
「やっぱり、ここにいたんだね」
花畑に出て、彼女を見つける。
君は花を眺められるようにと設置されたベンチに腰かけていた。
「随分と探したよ」
俺に気付き振り返った君は、気まずそうに目を逸らして、うん、と短く息を吐きながら音を溢す。
「皆、心配しているよ。戻ろう?」
力の入っていない右手に俺の左手を添え、立ち上がることを促すように軽く引っ張る。
彼女は嫌だと拒否するように手を滑らせ、またベンチの上へと戻してしまう。
それを追いかけようとした左手がむなしく宙を掻き、ゆっくりと太ももの隣へ添うように下りてくる。
もう少しだけ。笑顔になっていない笑顔を俺に向けてそう言った君は、視線を落としまた花畑に目をやる。
俺もその視線を追い、まだ所々に蕾と緑の残る景色を目に入れた。
「…もう一月くらい経ったら、一面黄色に染まるのかな」
ぽつりと零れた言葉を君は聞き取ってくれたようで、また短く、そうだねと相槌を打った。
林の中で唯一開けたこの場所。
そこに二人ぼっちでいると、まるで世界から切り離されたかのような感覚に陥る。
遠い空が、赤色から紫へ、紫から藍色へと変わっていく。
青がかかった紫色が不気味で、切り離されたという感覚を一層強いものにした。
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年7月21日 17時