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流石に、飲みかけのものを渡すわけにはいかないだろう。
それに……間接キスにも、なってしまうし。
一人で勝手に照れていると先輩がどうかしたのかと首を傾げる。
咳払いをしながら何でもない風を装い、あたりを見回して、少し離れた場所に自販機を見つけた。


「オレ、何か飲み物買ってきます。何がいいですか?」

「………後で、は無しです。そんなこと言って、その時になったら面倒くさくなって買わないんでしょう?」


こんな暑いのに。
小さく溜息を吐いて、どうしたものかと考える。
すると、オレの言葉に反論できずにいたあなたが急に立ち上がって、今から一緒に行動していいかと聞いてきた。
不意打ちのような、思ってもみない発言に驚いて言葉を詰まらせる。
えっ、と驚く声すら出なかった。
駄目かななんて頬をかきながら笑うその姿は、笑顔なのに…それなのに何処か悲しそうに見えて…。
けれどオレはそれを綺麗だと感じてしまった。


(本当に、どの表情を切り取っても綺麗で…)


ごくりと唾を飲みこむ。


(…撮りたい)

「………仕方ないですね。水分をちゃんと取ってくれるなら、いいですよ」


からかうように言うと、あなたは笑いながら頷いた。







カシャリ。
シャッターを切る音がして、カメラから顔を離す。


「…はい。撮れました。…見ますか?」


公園から少し離れた小さな湖。
そこで撮った写真を先輩に見せる。
木陰に覆われて、けれど葉の隙間から差し込む光で所々がキラキラとしている手前の水面と
遮るものが何もなく、直射日光に当たって眩しいくらいに輝いている奥の水面。
それを囲うようにして木々が立ち並んでいる。
涼しいその風景の中、葉の緑と、微かに見える空の青が夏だと言うことを感じさせた。


「にしても、湖があるということは知ってましたけど…」


顔を上げ、葉擦れの音を聞きながらあたりを一周ぐるりと見渡す。
暑さは多少残るものの、木陰とそよ風のおかげで随分と涼しく感じた。


今まで公園から湖を眺めることはあったけれど、公園の林をちょっと歩いてくるだけで、こんなにも別世界のような場所があったなんて知らなかった。
よほど嬉々とした感情が表情に出ていたのか、先輩はオレを見て楽しそうだねと笑った。


「はい。凄く。…ここまで来るまでの道も、ちょっと冒険感があってワクワクしました」


いつもより声色が高く、そして早口になる。
言い終わって、子供っぽいかなと恥ずかしさが顔を出した。

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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年7月21日 17時

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