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お前は恥ずかしさを隠すように俺から目を逸らして、料理に集中するように顔を伏せた。
…それでも、俺は彼女から目を逸らさないでいた。
次はどのタイミングで俺を見るかな。
そんな事を考えながら彼女を目で追う。
「…A、耳が赤いぞ」
うるさい。
顔を真っ赤にしたお前が顔を伏せたまま言った。
・
「甘いものは別腹、か?」
食事を終え、早速お前はケーキを取り出す。
俺の分のショートケーキと、自分の分のチョコケーキ。
彼女がそうしてケーキの準備をしている間、俺は珈琲の準備をする。
苦いのが駄目な彼女の分にはミルクと砂糖を入れて。
先に椅子に腰かけていたお前にマグカップを差し出すと、すぐに甘いかどうかを確認するように、珈琲を一口飲んだ。
「合格ですか、お嬢様?…はは、それは良かったです」
悪戯にはにかんで合格だと言う姿に、思わず頭に手を伸ばした。
優しく思う存分に頭を撫で、そのあとようやく俺も椅子に座る。
いただきますと言う彼女に倣い、俺も同じ言葉を繰り返す。
「美味しいか?……ほんと、幸せそうな顔しやがって…。…これ、いちご食べるか?」
差し出されたいちごとフォークを見たお前の瞳の奥は輝いていた。
しかしその顔には何処か遠慮が浮かんでいて、中々頷きはしない。
…でも、食べたい。そうお前の顔には書いてある。
「ほーら、お前が食わないなら俺が食べちまうぞ?」
食べるフリをすると、お前はもう少し悩んだ末に、食べると振り絞るように言った。
「…あーん」
おずおずと口を開けたお前にいちごを食べさせ、美味しいと言葉が聞こえた後、俺もケーキを口に運んだ。
「ん?……俺が差し出したんだから、食べちゃダメなわけないだろ」
本当に食べてよかったのかと聞かれそう答えると、お前は微妙な反応のまま納得する。
そのあと、食い意地はってるのは子供みたいかと控えめに聞いた。
「それは今更だろ。…ああだから、いい意味で」
「…そうやって素直に美味しいとか言って幸せそうに笑ってくれたり、恥ずかしそうに甘えてくれたり、お前のそういう姿が俺はすごく好きなんだ。こっちまで幸せになれる」
ふーん、と返事こそ適当だが、その顔は真っ赤に染まっていて、まるで先ほど食べさせたいちごみたいだ。
視界に映るお前と、珈琲の香り、遠くに聞こえるテレビの音。
口の中にあるケーキの甘い味が、そんないつも通りの日常にちょっとした特別感を出していた。
――――
甘さたっぷりの珈琲
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作者名:不雲綺 | 作成日時:2017年7月21日 17時