標的60 ページ14
何故か恭弥さんに(お姫様抱っこで)拉致されてしまった私は、ボンゴレ並盛アジトに隣接する風紀財団のアジトに連れて来られていた。
因みに風紀財団とは、並中風紀委員会を母体とする秘密地下財団らしい。
こんな時ですら並盛の風紀が大事ですか、ああそうですか、と言いたくなる気持ち、誰かわかって欲しい。
と言うか、いつの間にか並盛の地下がとんでもないことになってるのはどうしたわけなのか。
地下ショッピングセンターの更に地下にはミルフィオーレのアジトがあるらしいし。
地盤とか大丈夫なのこの町。
「着いた」
そう言って恭弥さんが開けた襖の中を覗き込んで、私は目を見開いたまま固まってしまった。
だって、その部屋の中にあったのは･･･アンティーク調の机も、揃いで買った椅子も、白い縁が気に入っているベッドも、ガラスの扉がある戸棚も･･･全部、私の部屋にあるものと同じなんだから。
「この施設が出来た時に、君が使ってた家具を運び込んだんだよ」
私をベッドに降ろし、自分も隣に座った恭弥さんは、「持ち主に黙って移動させるのもどうかと思ったけどね」と溜息を吐いた。
･･･ビアンキ姐さんの話によると、この時代の私がツナに死ぬ気の零地点突破･初代エディションで凍らされたのは
こんな話をするということは、その時点でこのアジトはまだ出来ていなかった･･･。
それなのに、この部屋に家具を運び込んだのは、この部屋の主人が、いつか戻ってくると信じているから。
なんだか、酷く胸が苦しい。
この部屋に恭弥さんと二人でいる私が、この時代の私でないことに、例えようのない罪悪感が襲ってくる。
「風香」
今現在の状況の歪さを改めて認識し、黙り込んだ私を恭弥さんが抱き上げ、膝の上に座らせられた。
互いの体が密着して、熱が伝わる中で、『止めて欲しい』と思った。
だって、私を呼ぶその声に、“私”以外に向けた感情が含まれていることに、気づいてしまったから。
でも、どんどん頑なになっていく考えをこの人は見抜いて、たったの一言だけで私の心を解いてしまう。
「･･････風香、いつの時代でも君は君だし、僕は僕だよ」
「･･･今だけ、泣いても良いですか･･･」
そして私は、この人のそんなところに恐怖を感じると同時に、『頼りたい』と思ってしまうんだ。
頼ったりしちゃ、いけないのに。
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作者名：水鏡 | 作成日時：2018年10月25日 9時
